断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

はじめての睡眠障害と自戒

件の大論文が完成してから、「12年も頑張ったから、しばらく休んでいいや」と無気力になってしまい、このところ研究に対するやる気が今一つであった。おまけにフランス領ギアナから帰国後に睡眠障害になってしまい、病院で薬をもらっていたのになかなかよくならず、それも原因の一つになっていた(後述)。

最近、山に行くようになったり、運動するようになったり、新しい人間関係ができたりで、私生活に良い変化が多くなり、ついでに睡眠障害も完治し、精神的に上向いてきた。教え子の山本君と有本君が無事に学位を取って卒業し、それがとても安心したということもある。4月からは茶坊主君が博士課程に来るので、それも楽しみである。

研究面では、英語の本(ハネカクシの総説集)の一章を受け持つことになって、それが6月締切なので頑張らなくてはならない。研究以外では、旅行記的な本を書きたいのと、その他、本の監修やら、文芸雑誌へのエッセイの寄稿もいくつかあって、かなり忙しくなりそうだ。楽しそうなのでやることにしたものが多いが、身に余る内容であっても、挑戦しようと思って引き受けたものもある。

もうすぐ43歳になるが、楽しいことと美味しいもののために生きると決めて、そのためには多少ともメンドクサイ努力するという考え方で行くことにした。また、楽しそうなことに限れば、自分の専門の枠を超えたことにできるだけ挑戦したい。

いままでは研究のために研究していた。そのために目前の仕事を片付けることに忙殺されていたが、それは間違っていた。研究こそが人生だと思っていたし、今でも研究はとても大事なものではあるが、そればかりではないと進んで考えたい。

むろん、こつこつやるべきことはやって、自分で満足のいく研究をすると同時に、その成果やその過程で得た知見の面白さをいろんな人に伝えていきたい。大学教員のなかには、雑用でやった気になって、研究を卒業してしまったような人も少なくない。それは違うと思う。たしかに雑用は山ほどある。そこから研究時間を作るのは大変で、気持ちを切り替えるのはさらに困難ではあるが、研究こそ間違いなく本来の仕事である。研究をしない教員に魅力があろうか。魅力がない教員に学生を教える資格があろうか(他人に押し付けるつもりはない)。大学によっては本当に研究時間が作れないことがあるようだが、九大はまだ恵まれている。はずである。

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近所のヤマザクラ。九分咲き。

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アセビ

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バライチゴとおぼしきもの

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週に2回くらいは食べる天神地下街の「加辺屋」の蕎麦。天神ビブレの「草八」もよく行くが、「加辺屋」の良いところは蕎麦湯の美味しいところである。席につくと蕎麦茶と蕎麦湯が一緒に出てくる(つまり湯呑2つ)。これがなんとも贅沢かつ落着いた気分にさせてくれる。

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大学構内のソメイヨシノ。3分咲き。

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雨の日のチューリップも格別。

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ソラマメも美しい。最近、ソラマメヒゲナガアブラムシがたくさんついているが、茎を倒して、爪で軽くはじくと、下に全部落ちることがわかった。

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さて、なぜ睡眠障害になったかというと、フランス領ギアナにおける毎日2回、3-4時間ずつ寝るという生活を規則的に続けたせいである。毎晩、20時から明け方の4時過ぎまで、灯火採集をした。これがものすごく楽しくて、興奮する。ツノゼミはたくさんくるし、タイタンオオウスバカミキリがいつ来るかというドキドキがたまらない。

宿に帰っても興奮状態が覚めずに眠れず、意味もなくルンルンしながらビールを飲んで、標本をいじり、完全に明るくなってからようやく寝付いて、それから3-4時間後に11時のブランチ。その後、昼過ぎになって、夕方まで少し寝るというわけである。帰国後もフランス領ギアナでの興奮が全体に覚めず、寝た後も夜中に必ず楽しい採集のことを思い出し、自動的に興奮して目が覚めるようになってしまった。まったく、幼稚な精神構造だが、仕方なく病院に行って、睡眠薬をもらい、1ヶ月半かけてようやく普通に眠れるようになった。

病院でこの能天気な事情を説明するのが難しかったことは言うまでもないし、お医者さんがそれを理解するのも当然難しい。「本当はひどいストレスがあるんじゃないですか?」と何度も心配され、家庭や仕事のことを詳しく話す羽目にもなった。睡眠障害は人生で初めての経験で、思うように眠れないことのつらさを知った。

立石山

日曜日は軽く立石山へ。とても良い山。

福岡は、すごく気楽に行ける山で、広葉樹林主体の良い山がたくさんある。いっぽう関東は、奥多摩といい丹沢といい、ほとんどの気楽な山はスギとヒノキの植林主体で、いまいち面白くない。中学のときに植物が好きでワンダーフォーゲルに入って、中高6年間、あちこちの山に登ったが、関東では好きな山はあまりなかった。福岡に来て山の植物を見るのが楽しくなってきた。

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ヒサカキの花が悪臭でも芳香でもないツーンとする微妙な香りを漂わせていた。

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こちらはベニヒサカキ(Eurya japonica f. rubescens)という品種のようだ。

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クロキ

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古処山

土曜日は登山サークルで朝倉町の古処山へ。とても良い山でした。

f:id:dantyutei:20170325092100j:plain花の小さなサクラ。品種不明。

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古い山だそうで、ところどころにお地蔵さんが

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きれいな渓流が頂上に近いところまで続く。

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シカの食害がひどく、林床には毒草しか残っていない。キジョラン。

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オモト

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良い香りのコショウノキ

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頂上付近はみごとなツゲの林

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3種のツゲが自生しているらしい。

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奥の院近くの地蔵

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シキミ

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ヤブツバキ

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集落跡近くにあった野生化したウメ。

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イズセンリョウ

チューリップ

まだ肌寒いが、春はもう来ている。大学の花壇に植えたチューリップが咲き始めた。

最近、登山サークルの一人が使っている「LUMIX G 20mm / F1.7 II ASPH.」というレンズが気に入り、自分も買って使っている。めちゃくちゃ明るくて、ボケがきれい。実質40mmレンズということになるが、それもちょうどよく、多用途である。

LUMIX G 20mm II|交換レンズ|デジタルカメラ(交換レンズ)|Panasonic

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チューリップ

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ソラマメ

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桜島大根

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暴れる女児

脊振山

週末は脊振山に登ってきた。登山サークルのみんなと毎月どこかに登っており、運動の機会と楽しみが増えた。上のほうにはまだ雪が積もっていたが、春はそこまで来ていた。

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今回はホソバナコバイモが見られたのが嬉しかった!嬉しかったというか、この日までこの植物のことを知らなかったのだが、可憐で良い花である。もともとバイモのなかまというものにあこがれがあったので、矮小な種とはいえ嬉しい。

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達成感

先日、Current Biologyという雑誌に長年の調査結果の第一弾が論文として出版された。

Deep-Time Convergence in Rove Beetle Symbionts of Army Ants

軍隊アリ共生ハネカクシにおける古い時代からの収斂進化

http://www.cell.com/current-biology/abstract/S0960-9822(17)30198-7

簡単にいえば、主に軍隊アリ類と共生するハネカクシが、古い時代から12-15回独立にアリの姿(myrmecoid, myrmecomorphy)に進化したことが判明。この大規模な収斂進化を通して、生物進化における一つの方向性を示したとも言える。

形態から複数回進化であることは予測できていたが、まさかの多数回進化で、しかも適応放散的に最近進化した形質かと思っていたら、予想外に古かったのというのが驚きであり、重要な点である。結果に驚いたわれわれは何名かの著名な進化生物学の研究者にお伺いを立てたのだが、「教科書に載るような発見だ」と絶賛され、かなり自信がついていき、出版前にpre-printという形でネットで仮出版をしたのだが、それからさらに磨きがかけられ、それから投稿後、ほぼ一発で受理された(限りなくわずかなminor revision)。

DNAを使った系統学的な研究には新鮮な標本が必要だった。そこで、東南アジア各地、カメルーン、ペルーなど、地球を何周もして軍隊アリの行列を観察し、ハネカクシを追いかけてきた。12年をかけて、ようやく形態学的な視点で主要な分類群がすべて揃い、今回の論文となった。長年の調査結果がこのような形になってたいへん嬉しい。(もちろん、野外調査における観察記録も論文の補遺に含めている。)

調査を手伝ってくださった皆さん、自由にさせれくれた職場の皆さんのおかげ。とくに共著者のJoseph Parkerに会えたのは本当に幸運だった。彼とは2009年にロンドンで初めて会って意気投合し、そのあとマレーやペルーにも同行し、日常的にいろんなことを話した。事前にかなり話し合って草案を決めたが、それからのまとめの時点で彼の着想(グールドの引用など)による一般的で親しみやすい構成なければ今回の論文はありえなかった。大きな幸運にも恵まれた論文だった。

この論文はすごく達成感があるのだけど、何かと言うと、自分にしかできないことができたという自信がついたことだと思う。12年かけて既知の重要種を集めて研究してみようなんて、思い付き・知識・技術・執念において、ほかの人にはできないように思う。単発の発見モノではない。研究の独自性というのが強く言われているが、その点でこれ以上の独自性のある研究はあまりないのではないかと。元をたどれば好蟻性昆虫という面白い研究材料に出会えた幸運も大きい。

 

 

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生存報告

ツイッターは気楽に電車のなかでも細切れに書けるけど、ブログはなかなかそうはいかない。iPhoneのアプリから書くのは書きにくい。というわけでこのところ更新が疎かになっている。

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実家の雑煮は「青のり」をたくさんかける。調べてみると、九十九里地方の習慣で、大網で育った祖母の影響のようだ。そしてさらに調べると、本来は青のりではなく、ハバノリという海藻を海苔状にしたものを焼いてかけるとのこと。そして、ツイッターで知り合った親切な方が送ってくださった。香ばしく、独特の香りがあり、とてもおいしいものだった。

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最近感銘を受けた図鑑「日本近海産貝類図鑑 第2版」。1冊で5927種が図示解説されているというのがすごい。奥谷先生はこの時代の巨人だ。

 

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フランス領ギアナで採集したお気に入りのゾウムシ。長い口吻もいいが、ハゲちょろげの毛もいい。近縁属はバッタの卵に寄生するので、本種もなにかに寄生する可能性が高い。

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家庭菜園の野菜がとれすぎているので、ちかごろはマメに自炊している。

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海洋堂から出たアゲハチョウの幼虫のソフビ。ちなみに私は「ナミアゲハ」とは呼ばない。「ヤマトタマムシ」も嫌いな和名だ。

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ガガイモ科多肉植物の栽培趣味が復活した。花が咲いたら写真を撮りたい。

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ビワハゴロモの収集も地道に進めている。いつか本を出したい。

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有名な料亭の「稚加栄」に行った。さすがのお味だった。

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月刊むしの表紙に私の写真が採用された。台湾のカタゾウムシとカタゾウカミキリで、すべて生きたまま撮影したもの。

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週末の土曜(2月25日)は東京で理科読シンポジウムというので講演した。子供のときに読んだ図鑑を紹介した。子供のときに買ったものはみんな読み過ぎてバラバラになってしまったので、写真のものは比較的最近買い直したもの。

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羽田空港から帰るとき、夕方であれば、毎回このタンメンを食べている。おいしい。

登山部 立石山

昨年から社会人の登山サークルに入っていて、毎月山に登っている。とても楽しく、良い運動になり、もっと早くやっていればよかった。こないだ登った糸島の立石山というのは、簡単な山ではあったけど、風景が最高だった。

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