断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

8月に山梨へ採集に行った折、フシボソクサアリというアリの羽蟻を大量に採ってきた。解剖のためにそれらを容器に入れて飼育していたのだが、やがて解剖の必要もなくなり、なんとなく殺すのも惜しいので、ペットとして飼育していた。それらが数週間前から卵を生み始めた。羽蟻と一緒に職蟻も一緒に入れてあったので、その職蟻たちが子育てをしているようだ。巣の中から羽蟻を採ってきたので、もちろん近親交配である。

このフシボソクサアリは、ケアリ属のクサアリ亜属に属する。クサアリ亜属に含まれるアリは世界に7種おり、うち5種が日本を含む東アジアに、残りの2種がヨーロッパに分布している。そのうちの1種、ヨーロッパのクロクサアリでは、一つの巣に複数の女王がいる多雌性が知られていて、それは巣内交尾に起因する。一方、アジアのクサアリ亜属の種では、多雌性は報告されていない。

今回の観察から想像をめぐらすと、少なくとも日本のフシボソクサアリは巣内交尾して産卵する能力を備えていて、もしかしたら野外でも多翅性である可能性もある。クロクサアリでは数十年にわたって存続している巣の存在が知られており、もしかしたら、このような巣も多雌性で、女王が入れ替わりつつ巣が維持されているのかもしれないと思った。ペットのつもりだったが、もうすこしこのフシボソクサアリを観察してみたい。