断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

この研究には一つの障害があって、それは標本が1個体のみ(検視標本が1個体のみ)であり、タイプ標本をAssing氏の私蔵標本コレクションに返さなくてはならないことだ。命名規約では、タイプ標本を公的機関に所蔵することを「勧告」されている(「規約」ではない)。また、雑誌によっては、受理の条件の一つとなっていることがある。

しかし、個人的には、条件付きではあるものの、タイプ標本の私蔵には問題ないものと思っているし、できれば自分もそうしたいと思っている。それには2つ理由があって、一つは自分の手元に標本がないと不便であるという研究上の必要性;もう一つは、将来自分の標本コレクションを売却あるいは引き取ってもらう際に、タイプ標本が含まれていると、高額で引き取ってもらえるし、寄付であっても、喜んで引き取ってもらえるという点である。

そもそも、公的機関とはなんだろうか。蝶の研究家では自分で大きな博物館を作っている人がいるが、これは私蔵だろうか?また、市町村の小さな博物館の寂れた標本庫が公的機関だろうか?依頼しても貸してくれない中国などの施設が公的機関だろうか?Assing氏の場合、年間総計300ページほどの論文を出版し、膨大なコレクションを持っているし、博物館や研究者との交流関係も常に密接である。下手な機関に置かれているよりも、よほど他の研究者にとって便利である。明文化しにくい条件ではあるが、私蔵だからといって無闇にそれを否定するのは能がない。

自分は売るつもりなどないが、せめてどこかしっかりした施設に喜んで引き取ってもらいたいものだ。標本の将来を考えると日本ほど深刻な国はなく、だから自分もマジメに私蔵を考えてしまう。もし将来、日本の研究施設に職を得たら、この状況を打破することを考えなくてはならないとも思うが、いまは先輩方に頑張ってもらいたいものだ。

さて、今回の論文はどこに投稿しようか…。

写真がトルコ産新属新種、唯一の標本