断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

少し前から最近にかけて読んだ本。

日本残酷物語」という一見B級映画のようなタイトルに臆してはいけない、といっても○○残酷物語という名称は、約45年前に出版されたこのシリーズを発端として流行したものだそうだ。明治から戦前くらいまでの日本の庶民の生活を様々な面から切りっている民俗誌。盗賊や口減らしの身売り、飢餓、いまでは考えられないようなことばかりだが、地方によってはそういったことも昭和までは普通の光景だった。そしてそれらは決して限られた貧民間でのできごとではない、というよりも国民の大部分が貧しかった。たとえば、稗を食べるというと、今の日本ではほとんど考えられない食習慣だが、昭和のはじめまでは東北の山村で稗は主食だったそうだ。こういった民俗学の本全般に言えることだが、教科書には出ていない、本当の日本の姿を少し勉強することができたと思う。著者は20名近くに上るが、どの部分を誰が書いたのかは明らかになっていない。それもそのはずで、各著者からの原稿を編集部で完全に書き直し、文体を統一したという。あたかも一人の大学者が書いたような自然な流れで、民俗学者である谷川健一(当時の平凡社編集)が編集担当だっただけのことはある。5巻続きだが、残りの3巻も読みたくなった。昆虫関係では、佐々学博士による風土病の記述がある(たまに著者がわかる)。

題名のとおり女の生活からみた日本の民俗学である。「女」という題材からたいへんよくまとまっていて、たいへん読みやすい。いままでの宮本常一氏の本でも最も好きなものの一つになった。解説を谷川健一が書いていて、宮本常一の人となりや研究姿勢について触れているところも面白かった。

女の民俗誌 (岩波現代文庫―社会)

女の民俗誌 (岩波現代文庫―社会)