断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

今日は薄曇りで時折日が射す。こういう日は天気が安定するので助かる。昼前から森へ出て、ヒメサスライアリを探して歩く。今日はなぜだか川の向こうが気になり、いつもの歩道や林内を一通り歩きまわったあとに、橋を渡って対岸の林内に入る。ここの歩道も数日前に掃除した。

掃除した歩道を過ぎ、折れ曲がる川のやや上流部の岸に近づいたとき、視界にヒメサスライアリの姿が現れた。しばらく行列を見ると、Aenictobia fergusoniと思われるハネカクシが現れた。アリはAenictus laevicepsに似ているが、Rosciszewski氏がA. fergusoniとして同定した例のA. laevicepsの近似種かもしれない。しばらくすると2頭のWeissflogia rhopalogasterが現れた。やはりそうだ。飛び上がらんばかりに嬉しい。

迂闊なことに採集道具は橋の向こうに置いてきてしまった。しかし、吸虫管だけはある。戻る間にも行列は進んでしまうので、吸虫管だけで採集を続けることにした。行軍は倒れた竹の上を走っており、ちょうど目線の位置に行列がある場所に腰掛ける。地面に寝転がるよりずっと楽である。

上記2種のハネカクシは次々に現れ、かなり個体数は多いようだ。しかも、大きなシミ、アリの背に乗る微小なハネカクシAenictoxenusもいる。観察を始めて1時間半を経た16時ごろ、女王の姿が現れた。女王の現れる数分前から必ず行列の幅が太くなるので、事前に心構えができる。女王を採集すると、決まって働きアリは大あわてとなり、5分以上は行列が乱れる。

女王はA. laevicepsによく似ているが、腹柄節の色彩が違う。やはり別種である。

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その後も行列は続き、17時を過ぎてからだんだんと林内が暗くなり、行列が見えにくくなってきた。行列と目の距離は10センチに近づけ、よく見る。次第に蟻客の数が減ってきたころ、こんどは野営巣を探す。倒れた竹が重なるうえに岩だらけで、かなり往生したが、なんとか行列を追い、巣の場所を見つけた。

この種は刺されると非常に痛い。吸虫管で吸うだけでも、ヘタをすると何頭かに這い登られて刺されてしまうのだが、1頭1頭がミツバチ程度に痛み、立て続けに刺されたときには暗い気持ちになってしまう。しかし、明日は野営巣を採集しなければならない。

宿舎へ帰り吸虫管の予備を取って再び森へ戻り、19時過ぎまで採集を続ける。その後、仕分け作業を行うが、ラベルを書いていて気付いたのは、今日が自分の33歳の誕生日であったこと。年を食うのは嬉しくないが、こんな日に森から良い贈り物をいただいたものだ。

夕食後にもすぐに行列の場所へ行き、21時過ぎまで観察する。いつ移動が始まったのか定かではないが、結局、観察から7時間を経ても引越しは終わらなかった。

ハネカクシは90頭ほど得られ、その他の蟻客も十分に採集できた。今日の成果により、過去にここから記録されたヒメサスライアリと共生するハネカクシは全て再採集されたことになった。