断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

昨夜は3時過ぎまで原稿書きをし、ロスリーさんの声で外に出たときには10時をまわっていた。朝方に昨日刺された痛みとかゆみで目が覚めてしまい、よく眠れなかった。今日はYong先生にダイクスさん、それにヌルさん(Nurul Aida Kamal Ikhsan)という修士の学生も一緒にやってきた。

ヌルさんはヒメアギトアリAnochetusの分類を始めるそうで、Gombakでの巣の場所を教えて欲しいとのこと。夜に朽木を見てまわると比較的普通に目にするが、どこでと聞かれるとなかなか思い出せない。1箇所だけ覚えていたので、そこに連れて行くが、やはり夜のようには見つからず。これから気をつけることにしよう。

ロスリーさんと3人でBukit Gentingの麓まで行き、ナシチャンプルーの食事をする。混んでいると思ったら、今日は勤労感謝の日で国民の休日だそうだ。

帰りに露店でとめてもらい、小ぶりなマンゴスチンを買う。味見してみると、いままでに食べたことのない甘さ。かつてボゴールの夜市で買ったものとは天と地の差であった。2キロで10リンギ(約300円)なので、比較的高級な果物といえるだろう。

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宿舎へ戻り、昨日のヒメサスライアリの野営巣の採集準備をする。何しろ痛いので、手袋に腕あてと厳重に準備する。少し緊張した。

野営巣は落ち葉の下にあり、付近の地面を叩くと、驚いたアリがクモの子を散らすように幼虫を加えて飛び出してくる。しかし、数分後には元に戻る。それを見ていたら、雄アリが出てくるではないか。何という運の良さ。

巣を覆う落ち葉ごと両手でつかみ、一気にバケツへ放り込む。大きな幼虫の塊がいくつも見え、それを次々に急いで放り込む。気付くと、手の周辺はもちろん、足元からも大量のアリが這い上がり、容赦なく刺してきた。あっという間のできごとで、横にいたロスリーさんとほうほうのていで巣を後にする。腕はもちろん、頭や背中までも刺され、頭をさわったらボコボコに腫れていた。

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Aenictus dentatusA. gracilisと違い、油を塗ったバケツの壁も容易に這い上がってしまう。バケツを叩いて上ってくるアリを落としながら急いで宿舎へと戻り、アルコールと酢酸エチルを浸した紙をバケツに入れて、あとは麻酔されるまでふたをする。

麻酔が効くまでの間、マンゴスチンを食べる。あまりのおいしさに数分で1キロを食べてしまった(といっても、皮が厚く種もあるので果肉は300g程度だろう)。刺された痛みがひどいが、ずいぶんと気がまぎれた。

こんどは巣の内容物の仕分けである。60%程度のアルコールに少しずつ巣材を入れ、幼虫や成虫を見ていく。早速、Vestigipodaが現れた。しかも大きい。これも新種だろう。今回3種目である。ハネカクシは昨日の採集でかなり採り尽くしたようで、Weissflogiaが5頭含まれていたのみだった。

仕分け作業が終わりに近づいた日没直後の18時18分、驚いたことに、手元に雄が飛来した。見る間に飛んで逃げてしまったが、色合いからして今日巣で採れたものと同種である。巣の匂いにひかれたのだろう。雄を採る仕掛けとして似たようなことを考えていたが、もしかしたら実現可能かもしれない。

遅い夕食の後、疲れたので今晩はゆっくりしたい気持ちもあったが、こうしている間に歩道をヒメサスライアリが横切っていると思うとそうはいかない。満月の夜。雲ひとつない空に煌々とお月様が上っている。

21時過ぎから森へ出る。1キロほど歩いたところで、Aenictus laevicepsの行列が現れた。野営巣の場所を突きとめたので、バケツを取りに宿舎へ引き返す。準備万端の末、野営巣を掘ると、獲物だけで幼虫もいないし、女王の姿もない。何のことはない。最初に女王を採集した巣の生き残りだった。それにしてもまだ頑張っているものだ。這い上がってきたアリに頭を刺される。

宿舎へ戻ったのは23時半。せっかくの雨のない夜なので、脚立をかついで夜のおたのしみに出かけることにする。毎日のように通っている場所なので、だんだんと道ができてきたことに気付いた。

さて帰ろうかというとき、なぜだか帰りの道が見つからなくなってしまった。脚立を持ちながら、林の中を右往左往する。道ができたことを行きに気付いたばかりだというのに全く不思議である。これが狐に化かされたというやつだろうか。藪を突き進んで別の道に出て、ようやく岐路につく。

道に迷ったといえば、今日ロスリーさんに面白い話しを聞いた。1998年、近くの山での調査の帰り、先に下山したはずの同行の助手が、夕方ロスリーさんが戻ったときにまだ登山口に着いていなかったという。つまり行方不明になってしまったのである。仕方なしに一度宿舎へ戻ると、滞在中だったWeissflog氏とMoog氏が一肌脱ごうと夜の山へ探しに出かけた。しかし両名も道に迷ってしまい、果たして翌朝になってようやく全員が帰ってきたという。夜の森は本当に難しい。