断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

ロスリーさんの車で朝6時にUlu Gombakを発つ。まずはロスリーさんの息子さんを高校に送り届けるのだが、早いと思ったら、マレーシアの高校の始業時間は7時半だそうだ。そしてKL Sentralへ送っていただき、ロッティチャナイの朝食をとり、空港へ向かう。どうしても一杯やりながら近江家の蕎麦が食べたくなり、空港から東京の甲虫屋3人にメールで、その旨を伝える。

夕方19時に成田着。空港で再びメールを見て、調査で来られない亀澤さんを除き、岸本さん、福富君が来て下さるとのことに感謝する。荷物を実家に送り、成田エクスプレスで新宿へ向かう。

すでに店が閉まる寸前だったが、岸本さんと福富君が蕎麦を注文しておいて下さった。近江家の茹でたての蕎麦は本当に最高だった。次にその上の中の濱に移り、マレーシアの写真などを披露しつつ、アオリイカの刺身やマグロや鮎の塩焼きに涙する。

昨晩から気になっていた背中のイボを飲みながら無意識に触っていたら、ツルンと丸いものが指の上に落ちた。何かと思って見てみたら、なんと大きく膨れたダニだった。膨れた大きさは3ミリくらいだったが、本体は相当小さく、おそらく1ミリ以下である。皮下に食い込んで、そのまま血をすって膨張し、その部分が背中でイボ状になったのだろう。急いで岸本さんの持っていたうがい薬で固定させてもらった。これで今回取り付かれたダニは3種めで、少し嬉しくなった。


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こんど再びUlu Gombakで調査できるのはいつだろうか。そして論文を書く上で絶対に必要な目的がある。そんなこともあり、行く前にはほとんど切迫した気分だった。しかし、目的の主なものが最初の数日で達成されるという幸運に恵まれ、結果的にのんびりとした気持ちで調査できた。全体的な成果は、1ヶ月以上の調査期間を費やした価値が十分にあるものであり、またそれだけの時間をかけないと達成しえないものでもあった。

重要な目標はヒメサスライアリAenictusとサスライアリDorylusの蟻客であった。結論から言って、前者は大成功に近く、後者は全く不発に終わった。しかしサスライアリの蟻客はすでに最低限の材料があり、補足的な調査程度に考えていたので、ヒメサスライアリの蟻客が当たったことは何よりであった。

ヒメサスライアリの蟻客に関しては、1975年にKistner氏らが、1990年ごろにRosciszewski氏とMaschwitz氏らが、1995年ごろにWeissflogとMaschwitz氏らがUlu Gombak調査して採集した種の全てに加え、いくつかの新しい種も採集することができ、形態、分子、その他いろいろな研究の標本を整えることができた。以下、発見したヒメサスライアリのまとめ:

  • 4月5日 Aenictus laeviceps 蟻客・女王採集
  • 4月6日 A. dentatus 目撃のみで成果無し
  • 4月8日 A. sp. 1(地下性中型種)蟻客採集
  • 4月11日 A. sp. 1蟻客・女王採集
  • 4月11日 A. sp. 2(地下性小型種・働きアリに2型)成果無し
  • 4月12日 A. laeviceps 蟻客採集
  • 4月14日 A. sp. 3(地下性中型種)蟻客・女王採集
  • 4月20日 A. sp. 4(地下性中型種)蟻客採集
  • 4月22日 A. dentatus 蟻客採集
  • 4月24日 A. cornutus目撃のみで成果無し
  • 4月29日 A. gracilis 蟻客・女王採集
  • 4月30日 A. aff. laeviceps 蟻客・女王採集
  • 5月3日 A. cornutus 巣を採集するが、成果無し
  • 5月4日 A. aff. laeviceps 蟻客・女王採集

サスライアリの敗因は湿りすぎであり、最初の数日を除き、ほぼ毎日雨が降った。そのせいでヒルや蚊も非常に多かったが、同時に、見かける虫の種数と個体数は全体的に多く、おそらく地上性の昆虫の採集には最適な期間だったといえる。ただし、灯火に来る蛾や糞に集まる虫は非常に少なく、その点で見られた虫の内容に偏りがあったようにも思えた。

また、トイレの灯火に集まるヒメサスライアリの雄は相当な種数と個体数を得、将来分子系統をやりたいと思っているオオアリについても結構な種数を稼ぐことができた。これらはいつか役に立つであろう程度の遊びである。

毎日朝起きて、昼前に森へ出て、ヒメサスライアリを探し、夕食後にもヒメサスライアリを探す。そして寝る前に本を読んだり、論文を書いたりというのが、毎日の日課であった。

これから過去に遡って採集日記を掲載するが、内容はヒメサスライアリ探しばかりで、それらは昆虫研究者でない人はもちろん、昆虫研究者にもおそらく理解困難で退屈なものだろう。したがって、できるだけ他の虫や日常についても触れ、写真を多く載せることにしたい。