断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

8時起床。昨日の雨上がりの採集ですっかり汚れてしまったズボンとシャツを洗濯する。その後、標本を整理していると、ロッジの周辺を徘徊していた小松君がヒメサスライアリを見つけたと知らせに来てくれた(Ae6)。見に行くと、小型で真っ黒の見たことのない種だった。仮巣の場所を確認して朝食へ行く。豚肉と太麺のスープ。

9時半にロッジへ戻る。早速、仮巣を見に行くが、どうやら別のロッジの床下にあったようで、少し掘ってみるが、かなり深く、諦めざるを得なかった。その際に小松君がきれいなムネアカセンチコガネの一種Bolbocerosoma sp.を掘り出した。

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それから小松君が見つけた樹上のテングシロアリの一種Nasutitermes sp.の巣を片山君も加わって解体する。1時間以上かけて崩しては篩うを繰り返すが、居候の姿はない。ついに現れたのは、諦めずに続ける小松君にやめようと促したときだった。非常に変ったアリヅカムシである。新属かもしれない。

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続いてコウグンシロアリの一種Hospitalitermesの巣を芝生の地下に見つけたが、掘り進んでみるととても深く、手が出なかった。

12時前にロッジを出て、昼食とする。豚肉のカレーと野菜炒めをかけたごはん。昼食後はHaew Suwatという滝へ行き、遊歩道付近で採集する。途中で雷鳴とともに雨が降り出した。ハシリハリアリの巣からノミバエを採集したり、別のハシリハリアリからアリヅカコオロギとシミを採集したりして粘るが、しばらくして土砂降りとなり、駐車場へ引き返す。お坊さんたちが観光に来ており、雨の中、楽しそうに滝を見ていた。

なかなか雨がやまないので、別の場所へ移動することにする。こんどはロッジに程近いMo Sing Toという貯水池の近くである。このあたり天気は馬の背を分けるがごとくで、場所によって全く違う。幸い、ここでは雨の降った様子はない。非常に新しい潅木林が広がる場所で、いかにもつまらないと思っていたら、すぐに小松君がムカシアリの一種Leptanilla sp.を見つけた。この属の生きたコロニーは初めて見た。

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小松君が写真を撮っている間、片山君と付近のシロアリの塚を掘る。片山君が猛烈な勢いで塚を崩し、菌園を取り出してくれた。Odontotermes indrapurensisのようで、兵アリはイエシロアリのそれより少し大きい程度、菌園はきめ細かい。

菌園を崩しては篩うを繰り返すと、しばらくしてPygostenini族のハネカクシOdontoloxenusの一種が出てきた。この仲間の大部分はサスライアリを寄主とするが、一部の種はシロアリに見つかる。サスライアリの主な餌がシロアリなので、捕食の際に寄主転換が生じたと考えられている。

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続いて3mm程度の異様な甲虫が現れた。背面が白い蝋状物質に覆われ、まるで菌園の一部になりきっている。脚は平たく、短くなっており、典型的な好白蟻性種の形態である。ヒラタムシ上科と思われるが、こんな甲虫は見たことも聞いたこともない。新属の可能性が高そうだ。

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それから立派なノミバエ。翅が短く退化し、腹部がシロアリのようにブヨブヨに膨れている。小型のノミバエも現れた。これらはすばしっこい。

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平たくてツルツルのAleocharini族のDiscoxenusハネカクシもいる。

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そして、ノミバエはノミバエでも翅がなく、腹部は完全にプヨプヨ、全くハエには見えないTermitoxeniinae亜科のハエが現れた。特異な形態は文献では知っていたが、生きたものは初めてで、改めて驚かされた。

注記*1980年にKistner夫妻がHeaw Suwatで採集したClitelloxenia thailandae Disney, 1997だろう。しらべていて、Kistner氏が1980年にカオヤイを訪れていることを知った。

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17時半にMacrotermesの巣に取り掛かるが、全く居候の姿がなく、18時に車に戻る。それにしてもOdontotermesはすごい成果だった。

夕食は豚肉を炒めたものとサバヒーを揚げたものをかけたごはん。夕食後は食堂の付近を散策。早速、ヒメサスライアリの一種を見つける(Ae7)。地下性の微小種で、残念ながら仮巣は地中深くで見つからず。

その後、昨夜のヨコヅナアリの行列を見に行く。引越しも最終段階のようで、今晩は大型働きアリの蛹を運んでいた。そうこうしているうちに雷鳴と土砂降り。食堂へ戻る。

しばらくして片山君が戻ってきて、ヒメサスライアリの移動行軍を見つけたという(Ae8)。小降りとなってきたので見に行くと、すでに移動は終わっており、片山君が付近の樹上に仮巣を見つけてくれた。アリ自身が固まりとなって巣を作っており、完全に樹上性と思われた。このような種はWeissflog氏もマレー半島で見つけている。形態はAenictus gracilisに似ているが、ふ節が黄色く、腹部の腹面の色が薄い。うまく仮巣をまるごと採集することができ、バケツに移してロッジで仕分けすることにした。

バケツにアルコールを注ぎ、仕分け開始。Vestigipodaが非常に多い。間違いなく新種であるが、Aenictus gracilisの巣にいるV. maschwitziによく似ている。また、AenictoxenusというPygostenini族のハネカクシも採集した。便乗性で、アリの背や腹に乗って移動する。インドシナ初記録で、これも新種である。樹上性のヒメサスライアリであったためか、いてもよさそうな他のハネカクシがいなかった。

小松君の写真を鑑賞し、23時半に就寝。今日は大成果だった。