断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

日本本土のクワガタムシを中心としたハンドブックで、本土のクワガタムシが確実に簡単に同定できる画期的な図鑑である。画期的な点は他にもあって、それは著者の冷静な判断による「正しい」分類体系の提案である。その点にいろいろと共感するところがあって、気持ちよくページをめくった。
まず乱立しいる亜種をほとんど無視し、種ごとの解説のみを行っている点がすっきりしていてよい。その他、当初亜種として記載されたにも関わらず、詳細な検討無しに種へと昇格させられている「ハチジョウノコギリクワガタ」を従来どおり一亜種とみなしており、当然これも詳しく解説していない。また、最近「キイルリクワガタ」、「シコクルリクワガタ」、「キュウシュウルリクワガタ」と地域ごとに別種に細分されたニセコルリクワガタを、細分に根拠が乏しいとし、旧体系のままニセコルリクワガタ1種として扱っている。さらに噂の「タカネルリクワガタ」の記載顛末を批判し、タカネルリクワガタと新和名を提案しており、このあたりも思い切りが良い。物議を醸し出すこと必至だが、私は強く支持する。同様の考えを持っていた人は多いはずである。なによりも、(多くの場合)意味不明の細分的な体系よりは、一般の人たちにずっと理解しやすい。
ただし南西諸島や離島の種についての同定解説に乏しい点は少し寂しい。本書の題を掲げるならば、それらの種についても本土の種と同等に解説して欲しかった。もちろん、このシリーズのページ数の制限についてはわかるが。種同定以外では、飼育法、採集法の簡単な紹介がある。また、なかなか説明の難しい外産種問題に関する解説もあり、これは一般の人にもすっきりわかりやすいと思う。

日本のクワガタムシハンドブック

日本のクワガタムシハンドブック