断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

大雨の音で目が覚める。起きていくと中瀬君がシロアリの翅アリの山をいじっている。軒先の蛍光灯に山のように集まってしまったらしい。私は森にかけた蛍光灯のトラップの中身を回収に行くが、同じく恐ろしい量のシロアリの山になっていた。
昨日ここについて、シロアリの塚の多さに驚くとともに、マレー半島の一部とはいえ、林相や環境(直感)はまだインドシナに近い印象を受けた。そして今日の蛍光灯のトラップを見てその考えがあながち間違いではないとわかった。インドからインドシナにかけてのみ分布するPedinopleurusという属の大型の好白蟻性ハネカクシが見つかったのである。南端のかけ離れた分布ということで、おそらく未記載種だろう。
Khao Luangは孤立した山塊で、しかも小型の昆虫はほとんど調べられていないので、きっと面白いものが採れるだろう。もちろんスンダの要素もあるにちがいない。
朝食はチャーハン。食堂の人によると、現在は雨季の最後で、雨が少ないという。昨晩は5日ぶりの雨だったそうだ。さすが雨男で有名な野村さんと同行しただけのことはある。
それから国立公園の事務所へ挨拶に行く。地図を見せてもらうと、孤立した山塊だが、かなり広いことがわかった。トラやマレーバクが残っているのも理解できる。
ワタナさんたちは別の遠い場所に行くというが、私はflight interception trap(FIT)を仕掛けたいので、1人で残ることにする。まずはシロアリの山の片づけ。雨の中だっただけあり、甲虫は少ない。死んだシロアリを玄関の脇に捨てると、ヨコヅナアリの行列がやってきて、翅を切り捨てて胴体だけを運んで行った。
大雨は続く。論文書きをすすめ、雨脚が弱まったころに一式を担いで森へ出かける。最初に掛けたいと思ったのは、コテージから2キロほど下ったところにある滝の付近である。重い道具を担いでえっちらおっちらと歩いていると、また雨脚が強まった。滝のそばにちょうど売店があったので、雨宿りをさせてもらった。雨脚が弱まったので、一挙に滝へ向かうが、また雨脚が強まり、こんどは傘をさして立ち往生。そんななか、青くて翅に白い紋がある巨大なベッコウバチが飛んできた。ぎょっとして追いかけるが、網がなく、何度と逃げられ、最後には見失った。かえすがえす残念。崖のようなところを覗いていたので、大形のジョウゴグモやハラフシグモを探していたのかもしれない。
雨の中の立ち往生を繰り返して、ようやくFITを仕掛けられそうな場所に着く。黒いオオキノコシロアリの一種の塚がたくさんあって、朽木や落ち葉のほとんどない不思議な環境である。虫が採れるか微妙ではあるが、とりあえず20基を仕掛けた。雨の様子を見ながら東屋で雨宿りしつつ、3時間かけてようやく設置が終わった。結局、ずぶ濡れ。
あんまり疲れたので部屋に戻って論文を書いていると、頭からゴロンと飽食したヒルが落ちてきた。頭のてっぺんをやれたようだ。
それからワタナさんたち御一行が戻ってきた。雨にはほとんど当たらなかったそうだが、落ち葉がぬれていて土壌採集には向かなかったとのことだった。ワタナさんたちはコテージにツルグレン専用室をつくって、せっせと土壌をかけていた。

私は最後の力をふりしぼって、こんどはコテージの近くの森へFITを10基仕掛けにいく。落ち葉の層が厚く、滝の付近とは全く違った環境だった。採れるものの違いが楽しみだ。
夕飯は食堂へ直接出向いた。鳥の脚のカレー、ティラピアのから揚げ、玉子豆腐のスープ、野菜炒め、それに私はソムタムを頼む。またカレーが恐ろしく辛く、中瀬君は泣いてしまっていた。食事中にケラが飛んできたので捕まえた。ここ数年、各地のケラを集めるのが趣味になっている。
それから中瀬君は独りで灯火採集にでかける。私はこうやって2日分の日記を書く。今晩は庭にいる大きなコオロギがうるさい。
中瀬君帰る。月夜だがアリネジレバネが2匹採れていた。私はPedinopleurusの新鮮な個体をDNA用に頂戴する。