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断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

今日も朝から快晴。しかし、まだ疲れているのと、今夜の作業に備え、7時の朝食後に11時まで眠る。小松君は昨日の巣を見に出かけた。
昼食はご飯にミートソース。言い忘れていたが、ここの食事はいつもおいしい。客の大半を占める西洋人向けの味付けで、きっと栄養価が高いのだろう、少量に留めても一向に痩せる気配がない。
14時半からジョー、イギリス人でゾウムシを研究しているというステファン(Stefan)と3人で昨日の巣に出かける。非常に暑く、長期滞在の連中は、この天気だと今日は夕方から大雨だと不吉なことを言っている。
途中でジャガーの糞からコガネムシを採った。また、今朝ステファンが見つけた別のグンタイアリE. hamatumの行列を見つけ、一時巣の場所を突き止めた。小松君は今日の午前中に出かけ、E. hamatumの行列を見つけたと言っていたが、どうやら同じ行列だったようで、小松君の残した紙切れのしるしがあった。
途中でステファンと別れ、16時前に巣に到着した。行列は出ておらず、木のうろの中はアリの塊であふれている。その下の木屑の表面をよく見ると、アリ型のハネカクシEcitophya simulansが歩いていたので、ジョーの吸虫管とつなげて管を長くし、次々に吸い上げることができた。19時くらいまで同じようなことを繰り返し、大型のシリホソハネカクシの蟻客Vetesusやエンマムシも採集することができた。

今日はびっくりするほど蚊が少なく(いつもは雲のように何十という蚊がまとわりついている)、林間を飛ぶ虫も少ない。また、今日もグンタイアリが引っ越す気配はない。
20時半になり、遠雷が聞こえ始め、冷たい風が吹いてきたし、グンタイアリも引っ越さないし、帰ろうということになった。それで歩道のほうに戻ろうと歩いたのだが、いつまでたっても歩道に出ない。わずか100メートルほどの距離だったはずである。10分ほど森のなかを歩いて、2人とも方向を失ったことを確信した。
薮をかき分けながらジョーのあとについていくと、だんだんと右に曲がっている。これではぐるぐると回ってしまうのではないかと思ったので、右に曲がっているよと教えたところ、こんどは左に曲がり始めた。私が先導しても、やはり曲がっているようだ。このときに確信したのは、人は密林の中ではまっすぐには歩けないということ。これがあらゆる遭難の重要な要因なのではないだろうか。
さらに20分ほど歩き、今日はここに寝て、朝日で東の方角を定めたほうがよいのではないかという話しにもなったが、2人で熟考し、雨が降りそうだし、もう少し歩こうということになった。そして、そこからわずか10分で歩道に出て、その瞬間、2人で抱き合った。
場所はなにしろアマゾンの奥地で、周囲に何もないところである。森は完全に平坦で、目印がまったくない。川に出れば舟が通るので助かるが、森の方に入ってしまったら、きっと行方不明になっていただろう。わずかな時間の遭難だったが、本当に恐ろしい気持ちだった。方位磁針もGPSも持ってきていたのだが、まさか道に迷うとは思わず、部屋に置きっぱなしになっていた。こういう過信や楽観が事故のもとなのだろうとおおいに反省した。
歩道に出てしばらくして、雨が降り出した。土砂降りでずぶぬれになりながら(傘が役に立たないほど)、「今日はビールが飲みたいね」、「雨が降ることを感知して、グンタイアリが引っ越さなかったのだろうね」などと話しつつ、23時に宿泊所に到着。たまたま食堂が空いていて、人がいたので、ビールで乾杯した。あまりに疲れていたのと、安心感による高揚のせいか、中瓶1本程度でフラフラになってしまった。部屋に戻って給仕が置いておいてくれていた弁当を食べる。