断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

6時に朝食。これまで7時が続いていたので、1時間の差は大きく、眠くてたまらない。朝食時、屋根の上をフトオマキザルが歩いていて、こちらを覗いて食べ物を失敬しようと狙っていた。新世界のサルは顔つきが可愛らしくないと思っていたが、このサルは可愛いと感じた。
朝から曇りがちで、昨日ほど虫が多くない。庭の花に青くて大きなシタバチが来ていて、網に入れたつもりが空振りというのが3回続いた。どうやら音速で飛べるようだ。同じ花にハチドリが来ていて、そのほうが容易に採れそうだった。
たまに小雨の降る天気で、やはり明後日の朝に出発するのは危険だと思いなおし、ゴンタに頼んで明日の午後にバスの時間を変更してもらった。電話の届かないところで、いろいろ試行錯誤して、クスコの町と連絡をとってもらうことができた。本当に来るかどうか心配ではあるが・・・。
昼食中に強い雨が降り、宿の前の車の往来が途切れた。土砂崩れが起きたようだ。ますます不安になる。小松君は朝方、アンデスイワドリを見たという。うらやましい。この宿の名前にある「Cock of the Rock」とは、このアンデスイワドリのことである。
午後は道路沿いを歩きまわり、ツノゼミを探す。ハリガネツノゼミStylocentrusが収穫だった。また、小松君に撮影してもらうため、ミミズクツノゼミTolaniaを採ったり、蓑島君へのお土産に水のしたたる岩盤でガムシを少し採集したりした。
帰り道、樹上でフトオマキザルの群れが何かを食べていて、枝を落とした。その枝には白い実がたくさん付いていて、よく見るとそれを食べている。試しに1つつまんでみたところ、ナシのような舌触りではあったが、渋く、薬のような匂いのする変な味だった。サルも各枝1粒食べては枝を落とすように食い散らかしていたので、おそらく不味いながら空腹しのぎに食べていたのだろう。
18時ごろ、昨日から宿舎のまわりで狩りをしているグンタイアリEciton vagansが引っ越しをしていることに気付いた。小松君と2人で観察することにする。ムクゲキノコムシやノミバエが多いなか、大型のハネカクシの未記載種Termitoquedius sp.や大型のシミTrichatelura manniが次々にやってきた。さらに見ていると、アリ型のハネカクシEcitodaemon sp.も現れた。1938年にReichenspergerがコスタリカから1属1種のEcitodaemon vagantiumを記載し、1968年にRettemeyerさんがエクアドルで2頭を追加採集して以来、おそらく誰も採集していない。Ecitodaemon vagantiumと同種かどうか気になるところだが、いずれにしても大変うれしい。しかもアリが運ぶ幼虫に便乗する行動も観察でき、大変興味深い発見となった。最近亡くなったRettemeyerさんに報告したかった。そうなると逆に、気を付けていないとすぐにアリの運ぶ幼虫に飛び乗ってしまい、見つからなくなってしまう。行列の手前のほうで観察していた小松君にずいぶん採ってもらった。19時過ぎに交互に夕食をとり、22時過ぎまで観察する。女王も採集することができた
ここは蚊が少ないぶん、サシチョウバエが非常に多い。リーシュマニア症を媒介するやっかいな吸血昆虫である。今日まで気を付けてきたが、今日は思い切り血を吸われた。吸われたあとは筋肉注射のような嫌な痛みがある。
途中、ジョーからJubogasterというアリヅカムシが採れたとの報告があった。今回、彼が2番目に狙っていた種である(1番目はAttapseniusというアリヅカムシで、それは果たせず)。昨年、ジョーと私で新属新種として記載したものと同種のJ. towaiのようだ。
22時半ごろに引っ越しが終わったと思ったら、雨が降り出した。明日帰れるか心配だ。