断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

うなぎ文

5月12日から20日まで、タイに行ってきた。学生の調査に同行するためである。4月から修士課程に新しく入った今田君と井上君の2人は初めての海外調査で、戸惑いつつも楽しい旅行となったようだ。昆虫研究の醍醐味は昆虫採集で、とくに海外での採集はワクワクするものである。ちなみに、今田君はヒゲナガゾウムシで、井上君はアリヅカムシである。そして同行した博士課程2年の柿添君はマグソコガネである。ところでこう書くと、今田君が人間ではなくてあたかもヒゲナガゾウムシそのものであるかのように思えてしまうが、もちろんれっきとした人間である。研究者、とくに分類学者は、自分や他人の専門の生物を、自分の一番の属性と意識する。したがって、自己紹介のときには「ヒゲナガゾウムシの今田です」などと胸を張って言うことも珍しくない。私もたまに「好蟻性昆虫の丸山」などと自分で言うことがある。「うなぎ文」という言葉がある。食事の注文の際に「私はうなぎ」などとよく言うが、これを英語に訳すと「I am an eel」となり、日本語独特の特異な表現とされている。対象生物が研究者個人そのものを指すような表現も、一種のうなぎ文と言えるだろう。2人が早く胸を張って専門を名乗れる日が来ることを楽しみにしたい。

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