断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

愛媛大の酒井先生の作っている「雑甲虫ニュースレター」を読み返していたら、興味深いというか、呆れてしまうような研究例が出ていた。

新種を記載するとき、その名前を担うタイプ標本というものを指定する。現代では、研究に使用した当該種の標本群から、唯一のholotype標本を指定し、残りをparatype標本として指定するのが一般的である。また、紛失や焼失などにより、holotypeが失われた場合、neotypeを指定することがあり、それがholotypeと同等の意味を持つ。そして、neotypeの指定にあたっては、いくつかの厳しい条件が要求される。

その呆れる研究というのは、韓国のコガネムシの某大家が、日本に収蔵されている韓国産種のタイプ標本が汚れて完全個体ではないという理由により、勝手に手元の標本をneotypeに指定してしまったという内容である。しかも、その論文は、韓国を代表する昆虫の雑誌に乗っているのだ。オマケに、「neoparatype」という、全く意味のないものまで創作している。

分類学には「命名規約」という規則があり、それに沿って様々な分類学的処置がなされる。今回の措置はいろいろな点で命名規約に沿っておらず、全くの無効である。

ここで気になるのは、この研究が単なるミスにより生じてしまったことか否かである。個人的には、日本に韓国産種のタイプ標本が収蔵されていることが某大家にとっては許されざるべきことで、その感情が勢いあまった結果であるような気がしてならない。そしてそんな研究が韓国で随一の雑誌に載るとは、何かその著者個人の問題以上のものも感じる。