断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

水曜日の講義準備の後遺症で、今週はなかなか疲れが取れずにいたが、相変わらず忙しかった。自分のことがなにも出来ないのが辛い。しかし、引き受けた自分に責任があるし、そのメリットもある。

そんな合間を縫って、木曜からマイクロサテライトの解析実験を始めた。あるアリの雑種か否かを検定するという目的である。既知のプライマーを使うだけなので、実験と解析自体はそんなに難しくなさそうだ。しかし、初めてのことなので、よくわからないことも多い。雑種であることは形態的に確実だと思っているが、それをきちんと証明するというのは難しい。実験室の西海さんにも相談したが、これは他の動物でも同様のようで、雑種を分子情報から確認した研究例はそれほど多くなく、方法が確立しているわけではないことがわかった。

いろいろ調べてみると、植物ではRAPD法が良く使われているようである。RAPDは再現性が低く、信頼性の低い実験といわれているだけに意外な気がした。しかし、植物の分子生物学は動物よりも一歩進んでいるので、なにかしらの意味があるのだろう。

さて、たかが雑種であるが、今回のアリは一時的社会寄生性のアリの一群に属する。一時的社会寄生性とは、寄生者の雌が別の種のアリの巣に侵入し、そのアリ(寄主)の巣の女王を殺し、寄主の巣の新女王として自分の卵と幼虫を寄主のアリに育てさせ、いずれその巣が寄生者だけの巣になるというものである。こういった社会寄生性のアリは、多くの面で、生理的・形態的特殊化によって、寄主の社会に適応しているはずである。そんな生態を持つグループのアリで雑種が生まれ、それが一時的社会寄生とう繊細な行動を経て大きなコロニーを形成しているのは興味深く、どういった形質が社会寄生に関わっているのかを知る重要な糸口になるのではないか。今回は、化学物質からも、雑種と親種の違いを検討する予定。

写真は小型のヨコヅナアリの一種、Pheidologeton pygmaeus Emery, 1887。ワーカーに2型がある(同属の他種では多型)。小型ワーカーは非常に小型(1.5mm程度)であるが、強力な毒針を持っていて、うっかり刺されるとかなり痛い。ミツバチくらいの痛みがあるが、体の大きさが小さいので、毒の成分としては相当強烈なのではないか思う。同属の他種もよく刺し、P. diversus, P. affinis, P. silenusの3種に刺されたが、どれもチクリとする程度。