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朝5時に起きる予定だったが、1時過ぎに就寝し、そのままよく眠れず、4時ごろに起きてしまった。6時に家を出て、新宿西口のバスターミナルに行き、信州の茅野へと向かう。高速バスは電話予約だったので、ターミナルの受付に電話番号を言うと、往復のチケットを出してくれる。往復5000円で、電車利用の半額以下である。
7時20分に新宿を出発し、早朝なので渋滞もなく、予定通り10時ちょっと過ぎに茅野に着いた。空は青々としており、絶好の採集日和。茅野の町でも標高800mくらいあるので、空気がひんやりとして気持ちよい。青空の下、あちこちで田植えをしていて、カエルの声が響き渡っていた。
レンタカーで採集に行くのだが、レンタカーは茅野駅前。高速バスのバス停「中央道茅野」から30分弱歩いて、トヨタレンタカーに着き、10時40分に出発した。
まず最初に、長谷村(今は伊那市の一部)の戸台という場所へ向かう。ツジヒゲナガコバネカミキリという珍種の有名かつ唯一の採集地として知られるが、今回初めて訪れることになった。別にこのカミキリが目当てではなく、当然、好蟻性昆虫が目的である。
152号線を長谷村へ向かう。途中、杖突峠を越え、高遠を過ぎ、横道に入って11時20分頃に戸台に着いた。早速、アリの巣のありそうな場所を探す。目的のアリ(寄主)はヤマアリだが、荒地に石がごろごろしているような場所がよい。戸台は沢沿いの崩落地なので、そのような環境が無数にあり、好蟻性昆虫を探すには楽園のような場所だった。しかしながら、時期が微妙に遅かったようで、ヤマアリの幼虫室(好蟻性昆虫が見つかる)は地下深くへ落ち着いてしまっており、収穫は少なかった。クロヤマアリとハヤシクロヤマアリからBatrisodellus longulus、クロオオアリかたBatrisodellus acuminatus、キイロケアリからBasitrodes oscillator、トビイロケアリからDiartiger fossulatusというアリヅカムシが採れただけだった。トビイロケアリの巣にアリノスアブMicrodon japonicusの蛹を見つけるも、すでに出てしまっていた後だった。
13時ごろ、戸台からそのまま山奥へと進み、入笠山へと向かう。入笠山は4回目くらいだろうか、そこそこの成果を得ているので、とりあえず寄ってみる。戸台の先は未舗装の砂利道で、崩落地であるために、途中で何度も新しいがけ崩れの場所を通り過ぎた。戸台周辺には素晴らしい広葉樹林が広がっているが、入笠へ向かうにつれ、カラマツの植林へと代わっていった。
入笠山での目的はエゾアカヤマアリの塚であるが、予想通り見つからなかった。昔の入笠山にはたくさんあったそうだが、年々減少し、いまではほとんど見つからないという。極度のカラマツ単一植林による影響だろうか。ここのエゾアカヤマアリからしか採集されていないハネカクシがおり、その追加が採集したかったのだった。修士とのとき、ヤママルムネアリヤドリAspidobactrus formicaeとして1頭の雌で記載した種である。
エゾアカヤマアリを諦め、過去によい思いをした牧場へ入る。石や朽ち木を起こすとヤマクロヤマアリの巣がたくさん見つかり、そこにタカネアリノスハネカクシを見つけた。亜高山帯のヤマクロヤマアリのみを寄主とする珍種で、亜高山帯の「高嶺」と珍しいという意味の「高嶺の花」をかけてこの和名を提唱した。同じアリ巣に目的のシリグロアリノスアブMicrodon sp.の終齢幼虫も見つかった。これは期待通りで、上手く飼育すればきれいな成虫が得られる。またここでは初めて採集するBatrisodellus属のアリヅカムシも嬉しいものであった。
15時近くに入笠山をあとに、富士見まで降り、20号線を北上し、再び茅野へ向かう。茅野へ着いたのは15時半。18過ぎにはレンタカーを返し、帰りのバスに乗らなくてはならないので、少しだけ気持ちが焦る。一日は短い。
茅野からは麦草峠へと299号線を登る。下りてくる車は多いが、登る車は少なく、思い切り飛ばして16時過ぎに峠へ着いた。峠はまだ早春で、ところどころに残雪があり、シラカンバの芽吹きもずっと先のように見えた。
峠を少し越え、佐久穂町(昔は八千穂村)ここでもヤマクロヤマアリの巣を探し、シリグロアリノスアブの幼虫とタカネアリノスハネカクシを得ることができた。日の当る石の下の幼虫はすでに前蛹になっていた(写真)。この段階で移動して無事に羽化するかわからないが、とりあえず採集する。ここでは日本未記録のアリノスアブの一種も2頭だけ採集したことがあるので、念のために全部の幼虫や蛹を持ち帰りたかった。
峠の反対側をさらに下り、こんどはエゾアカヤマアリを見に行く。小海町に入ってしばらくした標高1850mあたりのカーブに荒地があり、そこに巨大なコロニーが広がっている。ここでは未記載種のアリヤドリThiasophilaが採れている。時期尚早のためか、塚を篩っても見つからず。
気がついたら17時近くなっていたので、ゆっくりと茅野へ戻り、18時過ぎにレンタカーを返した。
18時44分のバスに乗り、東京へ向かうが、晴天と日曜が重なったせいか、かなり渋滞し、予定より20分遅れ、21時50分に新宿に着いた。
帰りの地下鉄の床にエゾアカヤマアリが歩いていた。篩いにくっついていたのがカバンから出てきたようだ。気がついたときには対面の女性の足元にいた。女性も気がついたようで、興味深げにじっと見ている。様子を見たそのとなりの女の子も気付いたが、虫が嫌いのようで、足を動かしてアリの歩く方向を避けていた。そのエゾアカヤマアリが動く足に大顎を開いて威嚇していた。さすが勇猛なアリだけのことはある。教訓:電車のなかにアリを逃がしてはいけません。
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