断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

藤原正彦:若き数学者のアメリカ 」を読んだ。先日読んで強く共感した「国家の品格」と同じ著者であるが、たまたま東京駅の書店で目にし、面白そうだったので買ってみた。ポスドクの数学者がアメリカに辿り着き、試行錯誤の生活のなか、(すごいことに)やがて職を得るという、いわば留学記である。自身の心理描写が見事な筆致で綴られているにもかかわらず、飾り気がほとんどなく、読んでいて実に気持ちが良かった。ラスベガスで大損したり、ガールフレンドを作るまでの挫折には共感したし、後半の研究や講義を中心とした生活からみたアメリカ人の気質の話しは実に面白かった。同じ留学記として、「小澤 征爾:ボクの音楽武者修行」も面白かった。これは成功談ばかりだったが、全体を通じて自信に満ちた様子が感じとれ、したがって文章にも一切の屈託がなく、それはそれで気持ちの良い内容だった。人生をかけた留学というのは一種の冒険であり、冒険というのは理屈抜きに夢のあるものである。こういった留学記は、とくに研究者を目指す人には思うところの多いものだろう。

若き数学者のアメリカ (新潮文庫)

若き数学者のアメリカ (新潮文庫)