断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

現在、バッタ目、ハエ目、ハチ目、チョウ目などと言われているものは、10年くらい前までそれぞれ直翅目、双翅目、膜翅目、鱗翅目と呼ばれていた。後者は正式名称であるOrthoptera、Diptera、Hymenoptera、Lepidopteraの漢字訳である。その他の目に関しても、ほぼ同様の方法で命名されてきた(Ephemeroptera=蜉蝣(ふゆう)目、Odonata=蜻蛉(せいれい)目などの例外もある)。しかしこの変更(提案?)には少なからぬ反対があるようで、昆虫学会の要旨集を見ると、チョウ目と鱗翅目とが未だに混在している。

どちらかといえば、私はチョウ目のほうに賛成である。理由は一つ。○翅目という言い方は難しすぎるから。変更の経緯は現在調べられないが、おそらく同様の理由からであろう。子供のときに北隆館の図鑑を見て、いったいどう読むのかと悩んでしまった記憶があるが、生物学を専攻したような特殊な人でない限り、普通の大人でも同様に感じるだろう。まあ、一般人など歯牙にもかけないような徹底した図鑑の姿勢に何かしらの高級感を覚えたのも事実だが。

たしかに多くの場合、○翅目のほうはその分類群の特徴を言い得ている。それが利点だが、研究者だけの世界の話だ。また所詮、ギリシャ語由来の名称に無理をして漢字をあてはめたものであって、普通の日本人の使用に馴染むものではない。カワゲラ目=セキ(衣片に責)翅目などその最たるものである。

目や科、属などの分類群の和名の命名には主に二通りの方法がある。一つはその分類群の特徴を表すの包括的な名称を用いたもの。もう一つはその分類群の代表種の和名やその分類群の一般名を冠したものである。○翅目のほうは前者にあたるだろう。簡単なほうは後者にあたる。和名というのはできるだけ多くの人に利用されてこそのもの。とくに目などの代表的な分類群名は一般の人の目に触れる機会も多い。その点でどちらが良いかといえば、答えはおのずときまっている。

研究者が○翅目を使いつづけるのはまったくかまわないと思うが、せめて専門家でない人たちの利用するような図鑑類では、簡単なほうを使っていただきたいものである。