断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

北米産ケアリ同定の続き。現在D論Acanthomyops亜属の検討を行っているRaczkowski氏に、一足先に一通りの同定標本を頂いた。だから楽チンと思っていたら、やっぱり落ちないものがある。形態ではある種に落ちるのだが、分子ではキッパリ分かれており、よくよく形態をみるとやっぱり違いがある。Acanthomyopsには雑種の存在がからんだ複雑な分類の歴史があるが、それだけに一筋縄ではいかないようだ。

少し前にDeutsche Entomologische Institut(DEI)のZerche氏にアリヤドリ属Thiasophilaに関する共著の原稿を送ったのだが、その返事が来た。ヨーロッパから記載されたクサアリヤドリ"Thiasophila inquilina"として極東ロシアと日本から記録しようとしている個体群は、別種であるとのことだった。しかも極東ロシアと日本の個体群も別種の可能性があるとのこと。クサアリの居候では唯一のアジアとヨーロッパの共通種で、多少違和感があったので、やはりというところ。また、同時に極東ロシアのヤマアリと共生する種についても検討しているが、寄主アリについて20年前にIBBSのKupyanskayaさんが同定したものをSeifert氏が再同定したところ、新種だったそうだ。ケアリでもKupyanskayaさんが既知種として極東ロシアから記録したもののうち、2種は新種だったので、今回のヤマアリの同定結果には納得がいく。そのようなわけで、「For all these reasons a quick publication is impossible. Sorry for this.」とのことだった。

好蟻性と思しきコメツキムシの文献をご教示いただいた際、「Faune des Colonies françaises」という雑誌を知る。

北隆館図鑑の校正を返す。この図鑑の特色として、属名の変更を生じた学名の著者名に括弧がついていないということがあり、最初の訂正ではそれに従ったのだが、校正にちらと写っていた他の人の訂正を見ると、ちゃんと括弧がつけてあるので、急いでそれらに従った。そもそも今回の改編には執筆要綱がなかったので、きっと体裁は訂正者によってバラバラだろう。とくに難しいのは地名の表記。たとえば、正確には完全に同じ地域を指さないが、「南西諸島」と「琉球」では人によって好みがちがう。図鑑の出版時にはもちろん沖縄県は返還されていなかったので、旧版で分布に沖縄県域の南西諸島が入っている種は非常に少なく、その後新たに分布に加わった種は非常に多いはずである。

また、40年前からずいぶんと学名が変わったことを強く実感した。担当のヒゲブトハネカクシ亜科では約1/3が変わった。しかし、一般の方の同定は図鑑頼りで、実際に地域動物相の目録にも古い学名が使われていることが少なくない。そういった変更の事実を一般の方に伝えるのも分類学者の仕事であるが、やるほうは大変である。