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一昨年は東大にいる神保君と今年めでたく徳島の博物館に就職した山田君と3人でマレーシアに行った。神保君が蛾屋なので、毎晩屋台(ライトトラップ)を開いたのだが、そのときに悩まされたのがこのドクガである。山田君は運良く被害を免れたが、最初に神保君、次に私と、このドクガの毒針毛でひどくかぶれてしまった。写真を見ると、いかにもとげとげしく、体全体が毒のかたまりのように見えるが、実際に毒針毛があるのはお尻の付近だけなので、普通に触る分にはたいてい平気である。しかし服の中に入って暴れられたりするとひとたまりもない。神保君と私は長袖を着ていたせいで、袖口からこの蛾に入られてしまったようだ。
ドクガの生活というのは毒にまみれており、生活史のすべてにおいて毒針毛を武器とする。蛹になるときに幼虫の毒針毛を抱え込み、羽化するときにもそれを受け継ぎ、産卵するときにはその毒針毛で卵を覆う(ドクガ科すべてが有害なわけではなく、毒の有無から強弱は種によってさまざまである)。厄介なのは成虫よりも何万という毒針毛を生産する幼虫で、チャドクガという強力毛虫の場合、多数発生している場所では発生木の下を通るだけで、抜け落ちた毒針毛によりひどい目にあうことがあるそうだ。この季節、日本ではツバキやサザンカでそのチャドクガが発生していることがあるので、これらの木の付近を通りかかるときには注意されたい。