断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

ここ数日、宮部みゆきの「あやし (角川文庫)」と「震える岩 霊験お初捕物控 (講談社文庫)」を読んだ。どちらも時代物かつ怪談物で、こういうのを読むのは初めてだったが、ものすごく面白かった。内容はさておき、私には深川の町並みが目に浮かぶような描写が嬉しかった。もちろんその時代からはすっかり変わってしまっているに違いないが、橋の名前や川の名前には聞き覚えがあるものが多い。実家は深川のさらに川向こうの、昔の東葛飾郡の大田舎にあるのだが、営団地下鉄に乗って数駅で門前仲町に着くので、深川は子供のときからの遊び場だった。

その当時、何よりも楽しみだったのは、毎月2回ある富岡八幡宮の縁日で、金魚屋や虫を売る虫屋の屋台が必ず出ていた。それで思い出すのが、幼稚園のころに祖母にせがんでクツワムシを買ってもらったことである。立派な姿に一目ぼれして買ってもらったはいいが、あまりのうるささに眠ることができず、結局自分の部屋から外へ出してしまったのを覚えている。縁日の虫屋では、今でも売っているスズムシやキリギリスなどの鳴く虫のほか、ゲンゴロウなども売っていた。ゲンゴロウといってもペット用の大型種ではなく、シマゲンゴロウやハイイロゲンゴロウなどの小型種である。金魚鉢に入れて目を涼ませるものでだろう。もう30年近く前ということになるが、その頃は風流なものが売っていたのである。

アメリカに来て10ヶ月が経つ。ほとんど遊んですごしたに等しいが、のんびり論文を読んで勉強する時間を得られたのはよかった。遊んでいたので生産性がほとんどなかったのだが、ここへ来ていくつか論文を投稿でき、なんとか挽回へ向かっている。