断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

すっかり寒くなってきた。朝は寒さで目が覚め、今日は長袖のシャツでも肌寒かった。しかし来週は少し暖かくなるようだ。このまま寒暖の高低は右下がりになっていくのだろう。

博物館で論文書きと学会発表の準備。出発まであと3週間。1つの論文と3つのPPT作成だけで手一杯、最後に大焦りになる予定。

休憩に甲虫の収蔵を見ていたら、スジブトヒラタクワガタSerrognathus costatus Boileau, 1898(=Dorcus costatus)のタイプ標本を見つけた。上の標本がそれで、ラベルには"Japon/Oshima/J.B.Ferrie/IV-V 1897"とあり、その下にcotypeのラベルがある(cotypeとはsyntypeの昔の別名で、今は使えない)。その下は別個体の一つで、ラベルには"Archipel/Liou Kiou/Ile d. Oshima/Ferrie 1895"と書いてある。"Liou Kiou"とはもちろん「琉球」のこと。"Ile d. Oshima"は"Ile d'Oshima"のことで、「大島の島」ということ。

それにしても、1897年に採集されたものが、交通事情の悪い時代に、翌年すぐに記載されたというのは驚くべきことである。採集者のP. J. B. Ferrieは奄美大島で布教したフランス人神父で、布教の傍ら多種多様な動植物をフランスへ送り込み、奄美大島の動植物相解明に貢献している。台湾でも過ごしたようで、奄美や台湾には少なからぬferrieiという名の動植物がある。

ちなみにスジブトヒラタクワガタ奄美大島群島の固有種で、上翅にスジがあると言う点で、実は世界的にきわめて特殊なオオクワガタ属の一員である。種小名のcostatusはスジがあるという意。奄美大島では、メスのみだが、リュウキュウノコギリクワガタヒラタクワガタにも上翅にスジがある。両者はもちろん遠縁であり、上翅のスジにはなにか適応的な意味があるのだろう。

f:id:maruyamana:20070819172041j:image

f:id:maruyamana:20070819172252j:image