断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

私の撮影は採集のついでなので、三脚を持って歩くわけにもいかず、写真の質には限界がある。また、最近流行の写真(虫の目、広角で背景も写す)にはあまり興味がない(ちょっとは撮ってみたい)。そこでこのごろは、「写真の少ない地味な虫」、「普通の人には見つけにくい虫」を重点的に、できるだけ全身を写した図鑑的な写真で個性を出すことにした。しかし初めての南米ではそうはいかなかった。ボウバッタやツノゼミもそうだが、恥ずかしながら超有名な虫を。
 おかげさまで→人気ブログランキングへ
カタンビワハゴロモFulgora laternariaである。セミ以外のカメムシ目としては最大で、翅を広げると手のひらに収まらないくらい大きい。動作は鈍く、触ると翅を広げて目玉模様を見せ、ピョンと跳ねてから飛翔をはじめ、10メートルくらい飛んで近い木に止まる。基本的にはジッとしていて、時折セミのようにおしっこを飛ばす。そのおしっこを舐めてみたらとても甘かった。
この虫で有名なのは何より面白い頭部の形である。風船のように膨らんで、中はスカスカ。この形態の意味には諸説あるが、今回の観察でなんとなく意味が分かった。まず、この虫は非常に高度な隠蔽擬態者で、白い肌の木に止まっているとなかなかわからない。そしてこの頭部も全く目立たない。頭部を横から見ると、節のように見える模様がある。形といい、模様といい、頭部を腹部に見立てているのではないだろうか。鳥などの捕食者は一般に頭部を狙うといわれるが、大型の虫については柔らかい腹部を狙うことが多い。そこでこのスカスカで傷がついても良い頭部を大事な腹部にすりかえるというわけである。もっとも、かなりよくできた隠蔽擬態だからか、止まっている個体の多くが擦り切れた老齢個体だった。成虫になってしまえば小鳥の餌にはならないし、あまり捕食者はいないのかもしれない。(エクアドル、Zancudo)