断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

『角川の集める図鑑GET! 昆虫』を制作にかかわって

昨年の5月に『角川の集める図鑑 GET! 昆虫』を出版した。子供向け図鑑である。このような図鑑は小学館の『NEO』、学研『LIVE』、講談社『MOVE』が御三家と言われ、シェアの大部分を占める。そこに角川が新規参入したかたちとなった。以前よりこのような企画はあったが、採算面で頓挫し続け、ようやく実現の運びとなったそうだ。
始まりは2019年の4月である。担当編集長から監修の打診があった。企画の概要をお聞きすると、世界を旅するかたちで、各地域の昆虫を扱う図鑑にするという。それは面白そうだ。二つ返事で了解した。そして、福岡で打ち合わせし、うちの博物館の標本をお見せし、基礎的な資料として、これらを使うことで進めることにした。
通常、このような図鑑は、出版社と編集プロダクションが写真を準備し、執筆を行い、監修者は文字通り監修という形で全体のチェックをするだけである。しかし今回は、私が撮影、執筆、監修のすべてを行うことにした。ただし、チョウとガの監修に関しては、東大博物館の矢後さんと科博の神保さんのお手伝いをお願いすることにした。
2019年の10月に早速撮影が始まった。これまで昆虫の写真の扱った本をいくつか出してきたが、今回は子供の目線で見たままの美しさを出したく、表現方法を変えた。とくにカブトムシやクワガタは斜めから撮影し、統一した表現で立体感を重視した。(もちろん、子供向けとはいえ、大人が見ても感激するような写真を目指した。)また、チョウとガに関しては、2020年の年明けに一部の重要種を東大博物館と科博で撮影させていただいた。

ただ、いくつかの重要種が撮影できない。とくに、日本の博物館全体に言われることだが、北米の昆虫全体、ヨーロッパの普通種に弱い。甲虫に関して言えば、東南アジアはどこでも充実しているし、アフリカや南米も普通種を含め、個人でもっている人が結構多い。それら足りない標本に関しては、ヨーロッパで開かれるインセクトフェアで入手できればと考えていた。
しかしそこへきてこの疫病である。海外から取り寄せるにしても、郵便事情が悪化し、多くの業者は発送をやめてしまっていた。インセクトフェアは軒並み中止である。それでも、相当の費用と手間をかけて、アメリカやヨーロッパから、なんとかして重要種を送ってもらった。
2020年の夏から本格的に執筆や編集を開始した。また、各地域の口絵に関しては、イラストレーターの安斉俊さんにお願いし、導入部の目の解説に関しては、Tokyo Bug Boysの法師人さんと平井さん、生態写真に関しては主に小松さんにご尽力いただいた。バッタ類に関しては、奥山さんから生きた虫をお送りいただき、新鮮な色で撮影できた。その他、多くの方から、標本を借りたり、ご教示いただいた。
それからは編集プロダクションの方と来る日も来る日も密に連絡を取り合い、編集と執筆を進めた。私がかなりの部分を受け持つつもりだったが、いちばん大変なのは、実際のレイアウトや執筆の下地作りであり、編集プロダクションの方の尽力がなければ何も作り出すことはできなかった。この業界における編集というものの役割の大きさを実感したものだった。
きっと疫病がなければ、何度か東京に赴いて、対面で打ち合わせをして、いろいろなことが簡単に進んだ面もあったように思う。しかし、私の場合、疫病のせいですべての海外調査がボツになり、自宅の仕事で深夜まで自由に時間がとれたので、編集と執筆に集中できた面もある。
とにもかくにも、2020年の夏に始まった編集と執筆は2021年の早春には終わり、無事に5月の出版にこぎつけた。矢後さんはかなり重要な指摘をたくさんいただき、蝶の最新の知見を取り入れてくださった。また、校正直前に農工大の柿沼君とクワガタに関するやりとりをして、彼の注意深さや知識の幅広さに驚き、急遽彼に全体の校正をお願いすることになった。繰り返すが、いろいろな人が関わっての図鑑だった。

今回、いろいろな図鑑を見て研究し、参考にした面、逆に改善した面も多数ある。おそらく子供向けに世界の昆虫を扱った図鑑としては、写真の品質を含め、概観を体系的に理解できる内容としては、最高のものができたのではないかと思う。ただし、残念なことに、疫病の問題で出版の販促イベントが一切できず、売り出しに少々苦戦しているところである。見てもらえたら必ず良い本だとわかると思う。長く店頭にならび、いつかこのシリーズが子供向け図鑑のスタンダードの一つとなることを祈りたい。

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GET 昆虫

 

 

図鑑でナゾトキ!?「GET!ミッション」にチャレンジ! 第2回 なぜ東南アジアはクワガタムシの種数が多いの? | ヨメルバ |  KADOKAWA児童書ポータルサイト

角川の集める図鑑「GET!」

 


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