断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

驚異の標本箱 裏話1

書名

書名は販売において重要である。今回もかなりの議論になった。出版社側からは「図鑑」という言葉を入れたいという提案もあったが、図鑑少年の私には図鑑という言葉に思い入れがあり、それだけはやめさせてくださいと言った。そんなとき、吉田さんが「標本箱」を入れたいと提案した。これには全員がもろ手を挙げて賛成し、かなり方向性が決まった。そして、それに博物館の原型である「驚異の部屋」の「驚異」をくっつけたのが書名となった。

私が好きな小説に小川洋子の『薬指の標本』というものがある。標本は私の仕事そのもので、もはや体の一部と言ってよいものだが、それはひとまず横に置いておいて、客観的に見た標本という言葉の持つ印象ーー古びた理科教室のような、埃をかぶった宝物がある博物館のようなーーというのがなんとなくあって、目指す本の印象にぴったりと当てはまる気がした。そして、これは異例なことだが、実は書名は企画のかなり初期に決まり、書名を頭に浮かべながら台割を決め、撮影作業を進めていくことができた。さらに言えば、通常、書名や表紙の最終決定は出版社であるが、今回は最後まで私たち著者の意見を取り入れてくださった。ありがたいことである。

出来上がった本を見ると、内容と書名が非常にしっくりと来ているように感じる。やはり書名を最初に決め、それが全員のお気に入りであったのが功を奏したのではないかと思う。使用しているのは標本だけではなく、生きた昆虫も少なからず含まれているが、本書全体が時間を切り取った標本箱となった。

 

撮影

この話をすると長い。とても長くなるので重要なところだけを。

作業期間中、お互いに写真を見せ合いながら、(作品批評にならぬよう、非常に気を遣いつつも)「前のほうが良かったですよ」とか「ちょっとアンダーかな」などと、静かに意見をぶつけあいつつ、撮影を進めていった。これがお互いに良い意味での圧力となり切磋琢磨となったようで、何度も同じ被写体を撮り直しつつ、3人が撮影を進めていくことになった。

著者3人のなかで、私がいちばん深度合成の経験は長く、撮影枚数という意味では場数を踏んでいる。本も4冊だしている。しかし、技術的には一番下であることは最初から自覚しており、作業工程のなかで吉田さんと法師人さんの写真はとても刺激になり、初心に返って学ばせていただいた。結果的には、同列に追いついたのではないかと思う。

見る人が見れば三者三様で個性的な写真となったと思うが、共通するのは3人それぞれが、受け持った被写体を非常に、いや、異常なくらいに丁寧に撮影していることである。1枚の写真に数千枚の撮影枚数で試行錯誤し、数日をかけたものも少なくない。だからどの写真も、著者らが考えうる最高の水準にあり、「これはもう少しこうしたかった」というのはほとんどないのである。

先日のイベントでもインタビューでも、「どれがお気に入りの写真ですか」と聞かれることが多かったが、3人全員が内心「全部」と思っているに違いない。

 

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