断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

昨日、Zootaxaから論文が出た。第二著者の意向により、数日中にオープンアクセスにする予定。
Zootaxa 1716: 35-43 (29 Feb. 2008) 5 plates; 9 references Accepted: 10 Jan. 2008
First record of the genus Myrmedonota Cameron (Coleoptera, Staphylinidae) from North America, with descriptions of two new species
Munetoshi Maruyama (Japan), L. Brian Patrick (USA), Jan Klimaszewski (Canada)
http://www.mapress.com/zootaxa/taxa/Coleoptera.html

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とある雑誌の編集の方から「s. str.(sensu stricto)」の用法に関する質問が来た。とくに甲虫では、原名亜属の省略形という形で使われることが多い。たとえば、Aus (Aus) busとすべきところを、Aus (s. str.) busと表記する。これが良いか悪いかということである。
結論からいうと、「s. str.」は原名亜属を意味しないので、誤った用法である。「s. str.」には字義そのまま、「狭義」という意味ほかない。「s. lat.(sensu lato)」、つまり「広義」に相対するものである。ある属の範疇について狭い考えと広い考えがある場合、狭い考えという意味で使うことができる。
たとえば、いわゆる(典型的なハンミョウらしい姿をした)ハンミョウ仲間は、本来Cicindelaだったものが、近年属の細分化が進み、多数の属に分けられている。しかし、ヨーロッパでは細分した体系が好まれる一方、アメリカの研究者では典型的なハンミョウをCicindela1属にまとめてあつかう考えも未だに根強い(ちなみに私も後者を支持)。こういった現状において、「Cicindela (s. str.)」と書けば、細分化されたなかでCicindelaとして残されたものを示すし、逆に、「Cicindela (s. lat.)」と書けば、アメリカの体系のような、典型的なハンミョウを1属として広くとらえるということを示す。
もちろん、こういった表現はその分類群の事情通にしかわからないもので、それだけで正確な範疇を示すことは難しい。分類情報の共有化が進められている今、実際に「s. str.」などを使う場面は多くないかもしれない。
結局のところ、「s. str.=原名亜属」だったら、本当に「狭義」という言葉を使いたい場合、他にどういう表現があるのかという問題に行き着く。「狭義」と原名亜属は別物、というのはおわかりいただけると思う。