断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

この時期になると、ある虫にソワソワする。それはアリスアブの仲間Microdon spp.である。幼虫はアリの巣に住み、成虫は晩春から初夏にかけて地上に現れる。成虫はハナバチに擬態しているものが多く、可愛らしい姿をしている。福岡低地の成虫出現期ほとんど終わってしまっているが、本州中部山地帯や、東北、北海道ではこれからが良い時期になる。
成虫の姿はこちら↓
http://ze-ph.sakura.ne.jp/zeph-blog/index.php?e=347
本土にもまだ新種がおり、北大時代の先輩の広永さんと検討を進めている。本土で一番問題になるのが「キンアリスアブ」とされているもので、正真正銘のキンアリスアブM. auricomusのほか、最近記載されたコマチアリスアブM. murayamai、未記載のシリグロアリスアブM. sp.を含む。3種は主として色彩によって分けられるが、異所的な分布を示し、いまのところ中間型は見つかっていない。そのほかにも未記載種や日本未記録種がいくつかある。
ところで、アリスアブは「アリノスアブ」ともいう。「日本産昆虫目録」(九大目録)では「アリスアブ」、Googleで検索すると、「アリスアブ」が478件、「アリノスアブ」が336件となっており、どちらも(地味ながら)いい勝負にある。
矢野宗幹が日本から本属の初記録としてM. japonicusを記載した際には「アリノスアブ」だったのだが、松村松年が「アリスアブ」に改め、以後、アリスアブが広まった。しかし近年になって、双翅目談話会の会誌で、最初に提案された和名であるという点と「アリス」という語彙の不自然さから、「アリノスアブ」という語幹にすべきと提案した。しかし、格助詞を省略した和名は数多く、語彙の不自然さを指摘したら、かなりの和名に改変の必要が出てくる。どちらが良いか断言できないが、論文にするときには、アリスアブ全般に関しては「アリスアブ(アリノスアブ)類」と書いて、個々の種については、語幹をアリスアブで統一しようと思う。