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断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

帰りが迫っている。見つけなければならないのに見つけていない虫がまだまだある。今回はわずか2週間の滞在で(それでも十分ありがたいことで、現在の平社員待遇でないと難しいのだが)、あまりに短すぎる。こちらの学生はみんな最低3ヶ月、長ければ半年も滞在し、のんびりと研究しながら、同時にこの森に関するさまざまな事象を理解している。日本であれば、教員はおろか学生でさえこんな長期滞在は難しいだろう(某大学にいたっては、一昨年から大学院での一般講義が必修となり、自分の研究に関係のない講義に時間を費やさないと卒業できないという事態に至っていて、実験系の教員などは無理解なので、季節を選んで長期滞在することが不可能となってしまった)。現在、日本の研究者が熱帯に出向いて「きちんとした研究」をするのは、ごくごく限られた待遇にある研究者や奇特な大学の学生を除いて、ほとんど不可能と言ってよいだろう。
そんな愚痴めいたことを言っていても仕方ない。短い期間に燃え尽きるつもりで頑張らねばならない。
今日は朝からジョーとはハキリアリの巣を掘りに出かけた。2巣からゴキブリなどの共生者を採集し、その実験をするのである。全身をアリに噛みつかれながら、8時から11時までがんばって、どうにか十分な数の共生者を得ることができた。
ようやく天気が良くなったので、洗濯をしようと思ったのだが、ポンプが壊れて水道が出ないという。しかもこの先2日間は使えない可能性があるとのこと。つまりシャワーも浴びることができない。ちなみにポンプは川にあり、水道の蛇口をひねるとアマゾン川支流の水が出るという豪華な日常とはしばしお別れになる。
午後からジョーとグンタイアリの巣に出かける。今日は歩道の水もずいぶん引いていて、かなり歩きやすかった。それでもしばしば泥の道に難儀し、1時間半かけて巣に到着した。途中でアカハナグマNasua nasuaの10頭ほどの群れに遭遇した。こちらに驚いて、次々に高いところから地面に飛び降りる様子は壮観で、ドスンドスンと大きな音が周囲に響き渡った。彼らは必死の様子だったが、こちらは思わず笑ってしまった。
午前中に小松君が狩りの様子を観察し、主目的だったハエの撮影にも成功していた。その狩りも終わり、行列が巣に戻るところだった。ジョーが土壌採集のために土篩いをしているあいだ、私はその行列を眺めてハネカクシを探した。これまで見つけていなかったEcitomorpha arachnoidesというアリ型の種を首尾よく採集することができ、19時までに十分な数を得ることができた。19時過ぎにジョーが戻ってきて、引っ越す様子もないので、今日は早めに帰ることにする。今日は夕食の弁当を準備してもらえない可能性があるからである。
というのも、日曜日なので食堂の料理人が町に帰ってしまったそうで、今日は女主人が腕をふるって料理を出してくれるとのことだったのだが、彼女いわく、夕食時間以外の食事は許さないという。食堂の給仕に頼んで、こっそり弁当を作ってくれるように頼んだのだが、それもどうなるか分からない状態だった。下らない話題だが、往復15キロの道を疲れ果てて帰ったあとの食事の有無は重大な問題なのである。
そんなこんなで小走りで帰り、20時過ぎに到着し、なんとか食事の時間に間に合うことができた。食事は不思議な味のスパゲッティで、慣れない調理のせいか、全員分の量が足りないという惨事が起きていた(私は最初にもらって、とっとと食べてしまった)。
夕食後に少し実験し、ジョーが採ってきてくれたカエルを撮影し、今日は早めに眠ることとする。疲れ切った。

Hyla lanciformis