断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

弁当を作ってもらい、朝から、ジョー、ステファン、ダニエルとその奥さんのクリッシー(Chrissie)、それに小松君と、Katicochaという湖に出かけることにした。目的はピラニア! 今回、アマゾンに行くからにはピラニア、もはやピラニアを釣らなくては意味がないと思い、出発前日に釣り具屋で短く持ち運べる竿を購入し、リールや釣り針とともに持ってきた。ステファンにその話をしたら、彼も釣りが好きで、近くで釣れるところを知っているので一緒に行こうということになったのである。
朝食後、ステファンが電気のコードを切って、ワイヤー状のハリスを作ってくれた。それから食堂の厨房に行き、残り物の骨についた肉(牛肉)をそぎ落として、200グラムほどの餌を確保した。
9時過ぎに出発し、ステファンの先導でゆっくり歩きながら湖に向かう。あまり人の通らない場所のようで、道が難しい。独りでは到底たどりつけない場所だった。ステファンは190センチ以上あるノッポだが、非常に目が良くて、神経が鋭く、この植物の蔓の巻き方が面白い、これは何々の巣だとか、細かいことにいろいろ気づき、こちらはとても楽しかった。また、撮影はできなかったが、美しいヤドクガエルを見ることができた。途中でグンタイアリの行軍があり、小松君はそこで撮影のために残ることになった。
11時半に到着すると、ここでは記録の少ないというオオカワウソの家族がいて驚いた。すぐ近くでこちらを見ながら泳いでくれて、じっくり観察することができた。それから昼食をとり、12時に釣りを開始する。

仕掛けは、ステファンが町で買った巨大な鈎に、ワイヤーのハリス、1号程度のオモリを付けて飛ばすだけである。ステファンは竿がなく、手で釣ることのこと。投げてすぐにアタリがあるが、なかなか針にかからない。そこで思い切りあわせると、1匹目のピラニアが釣れた。とても嬉しい。目が真っ赤で、恐ろしい顔をしている。あとで調べたところ、Serrasalmus rhombeus(現地名はPiraña blanca=白いピラニア)という種のようだ。


鈎の先が鈍くてなかなかかからないので、私が持ってきたブラックバスの鈎に変えたところ、こんどは次々にかかるようになった。それからはほとんど入れ食いで、最初のとは別種の黄色いピラニアSerrasalmus spilopleura(現地名はPiraña amarilla=黄色いピラニア)のほうが多い。これは丸っこくて、目が橙色で、さらに恐ろしげ。熱帯魚店で売っているピラニア=ナッテリに良く似た形をしているが、別属である。大きいのは少ないが、20センチ程度でも、丸くて肉厚の魚なので、かなり手応えがある。また、多くの個体で体に噛み痕があったり、ひれがボロボロになっていたりして、仲間どうしの噛みあいがずいぶんあるようだ。


とにかく、入れるとすぐにアタリがあり、顎が硬いのでなかなかかからないが、とても楽しい釣りである。引きが強く、釣り上げるだけで汗を書き、腕が痛くなった。こんな経験は初めてだ。岸辺には大きいのはいないが、水面に餌を触れさせるだけで次々に飛びかかる様子が観察でき、子供のころに「水曜スペシャル」で見たピラニアの恐ろしさも実感できたような気がした。川口浩隊長のように(無駄に)噛まれることはなかったが、2人とも指先が歯に触れて出血した。
釣っている最中、岸辺にMegadytesという大きなゲンゴロウが寄って来た。アマゾンにいるとは聞いていたが、どんな環境にいるのか想像できなかった。現地には河跡湖が無数にあって、今回の湖もその一つのなのだが、そういう場所が生息地の一つだとわかった。
15時前までに2人で60匹以上を釣り上げ、意気揚々と帰ることになった。あわせて10キロ近い重さになったが、ステファンがリュックサックに入れてくれた。
帰り道にタイラを見た。巨大なイタチ!
もちろん釣りだけの1日ではなかった。行き帰りにグンタイアリをいくつか見つけ、ちょっとした収穫もあった。
宿泊地に戻り、厨房にピラニアを広げて記念撮影。クリッシーも少し釣ったので、一緒に。


そして夕方から、30頭くらい食べごろの大きさのピラニアを選び、ステファンと一緒にウロコと内臓を取る作業をした。これがなかなか大変だった。
18時半に久々の灯火採集を開始。今日は非常にツノゼミが多く、Heteronotus declinatusなど、初めてのものもいくつか飛来し、充実した採集となった。ウグイスコガネやマンマルコガネなども嬉しいものだった。
夕飯はもちろんピラニアで、1泊で来た客を含め、全員にふるまわれた。噂には聞いていたが、肉に歯ごたえがあり、味がよく、大変おいしい魚だった。


今日もシャワーが出ない。従業員に訊くと、「マニアーナ!」と言われた。とはいっても今日は全身が魚臭く、明日ではどうにもつらい。食堂横の食器洗浄用のバケツで体を洗わせてもらい、なんとかすっきりすることができた。