断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

昆虫を分けるカテゴリーに、「馬鹿虫(ばかむし)」と「賢虫(かしこむし)」というのがある。文字通り知能に関するもので、ハチやアリやシロアリの社会性種は賢虫で、それ以外は馬鹿虫となる。(アブラムシにも、カーストを持ち社会性と定義されるものがいるが、これは微妙…。カースト性=真社会性という定義は見直してよいと思う。)馬鹿虫というと聞こえが悪いのであまり使わないが、ときに便利な言葉である。

なお、社会性でない虫は一概に馬鹿だというわけではないが、昆虫の知能と社会性に密接な関わりがあること自明である。少なくともアリでは、社会性の進化段階と知能の発達は明らかに相関している。

自分はいままでハネカクシという馬鹿虫を主に研究していた。しかし、好蟻性昆虫をテーマとし、アリに関わるようになってから、アリに対する興味はどんどん強まり、いまでは好蟻性昆虫とアリの両方を専門としている。

アリを始めてつくづく思うのは、アリの研究にはテーマが尽きないということである。すべての生物それぞれに面白いテーマが隠されていることは間違いないはずだが、それを差し引いても面白いテーマが絶対的に多い(見つけやすい)対象といえる。このことはアリ研究者の数の多さによっても裏付けられる。やはり、社会性に関係する行動の多様性とそれをとりまく様々な現象の存在は、馬鹿虫とは桁が違う。さらにアリには、飛行能力の消失により、飛翔性の社会性昆虫であるハチよりもずっと野外観察がしやすいし、材木のなかで材を食べるシロアリよりもずっと飼育が容易であるという、研究上の数々の利点もある。

また、アリは日本の昆虫のなかで最も多様性解明の進んだ分類群のひとつである。そのなかで最も重要な成果は「日本産アリ類画像データベース」http://ant.edb.miyakyo-u.ac.jp/J/index.htmlで、これにより、日本のアリが容易に同定でき、分布や生息環境もだいたいわかる。なお、データベース関連のHPでは、NASAのHPに続き、アクセス数が世界2位となったそうである。1兆を超えたらしい。

こんなに解明が進んだアリであるが、まだまだ研究すればするほど個々の種に関する新情報は増えていくばかりだし、わかっていないことはあまりにも多い。