断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

風邪が抜けきらずに体調はいまいちだが、なかなか機会もないと思われるので、今日はツル観察にお邪魔することにした。13時に博物館へ行き、Newtonさんご夫妻の車に同乗する。約1時間でインディアナ州へ、それからまた1時間でツルの産地Jasper-Pulaskiに着く。

駐車場で、AlexeyやKatayevさんをはじめロシア隊と合流する。お名前を失念してしまったが、Katayevさんのお友達のご夫妻と犬も一緒だった。

あたりはものすごい風で、あっという間に芯から凍えた。まずは駐車場わきの観察台へ行くと、そこは一面のツルの群れだった。カナダヅルSandhill crane Grus canadensisというやつで、日本のナベヅルに似ている。団体の観光客も来ていて、強風のなか、皆喜んで見ていた。数千羽が羽を休めており、たしかに壮観だった。良く見ると1羽だけ白いのがいる。アメリカシロヅル Whooping Crane Grus americanaという種で、野生には200羽以下しかいないという希少種である。カナダヅルより少し大柄である。

次に林内を歩こうということで、近くの林に移動する。林に入るとアジアの林との違いにアメリカに来たことを強く実感した。広大な湿地帯にアカナラQuercus rubra(たぶん)とマツ類の林が広がるが、アカナラというのが日本のナラと違い、葉の鋸歯がびろーんと長く、それが林床にたくさん落ちているものだから、それだけで日本の林とは随分雰囲気が変わる。朽木を起こすとAcanthomyopsという北米固有の素敵なケアリがいて、そこでもやっぱり北米大陸に来たと実感した。ただ、日本のカシワに良く似たのものもあったし、マツはクロマツに良く似ていた。もうひとつ確実に大きく違うのは、湿地の脇にヌマスギが生えていること。湿地に高木の針葉樹とはやはり意外な風景である。このあたりがヌマスギの北限とのこと。

17時ごろに休憩ということで、ロシア隊がいきなり林床に粗朶を置き、焚き木を始めたのには驚いた。そして飯盒でお湯を沸かしていた。サンドイッチとブランデーを入れた紅茶をいただく。

あたりが薄暗くなってきたころ、こんどは湿地帯へ向かって歩き出す。さらにツルが集まってくるという。湿地を見渡す展望台に着く。広大な湿地帯に落ちる夕日とツルの群れ、そしてツルの声。すばらしかった。

湿地にはマスクラットの作った丘がたくさんあり、犬が大興奮して地面を掘りまくっている。また、看板に「14インチ以下のブラックバス、10インチ以下のアメリカナマズは放流」との注意書きがあった。どれも日本に居着いている外来種だ。マスクラットやブラックバスの住む池でも、水は澄み、水草が生い茂り、いかにも自然な空気だった。あたりまえだが、日本の廃れた野池とは違う。水面に浮かぶ鳥の大きな群れがあり、カモかと思いきや、アメリカオオバンAmerican Coot Fulica americanaだった。日本のオオバンにそっくりだが、群れは優に1000を超え、日本のオオバンでは見たことがない大きさだったものだから、少し驚いた。

暗い林道を歩いて車に戻る。冷え込みが増し、月明かりに木々の陰が見える。最後に暗い林を歩いたのはマレーシアだった。などと思い出す。