断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

「昆虫はすごい」の裏話3

編集

「昆虫はすごい」の裏話1 - 断虫亭日乗

「昆虫はすごい」の裏話2 - 断虫亭日乗

の続き

それから執筆の日々である。夕方の数時間を使って、1か月ほどかかった。その間に、さらに小見出しや話題を加えていった。

その次に大変だったのは、参考文献の抽出である。昆虫雑学本はいくつかあるし、著名な先生が随筆などで語るものもあるが、そういうものには不正確な内容が少なくない。そのときに大切になるのが参考文献である。今回の本では、それらの本と一線画すために、参考文献の抽出にはこだわった。ただし、頁数の問題、見た目の問題から、総説や初出を尊重し、本数は絞らざるを得なかった。一つの現象にしても、本当にそれが適切な文献であるのかは、最後まで迷ったところである。

次に写真の選定である。これには伊丹市昆虫館の奥山さんと長島さん、さらに小松君と島田さんに大変お世話になった。他の方々にも数点の写真を提供いただいた。

同時に自主的な内容校閲である。全般を神戸大の杉浦真治さんに、社会性昆虫の部分を香川大の伊藤文紀さんにお読みいただいた。お二人の訂正は本当にありがたかった。また、杉浦さんは同世代で一番尊敬する生態学者だが、やっぱりかなりのことをご存知で、この方こそ本を書くべきだと思った。

それから文章そのものの校正である。今回はとある個人編集者を介した企画だったのだが、その方の校正が全く役に立たなかった。それどころか改悪される一方で、二度手間を繰り返した。去る方によると編集者とケンカするほど良いものができるということだが、そういう意味では正解だったのかもしれない。

心配だったので、普段からお世話になっている生物系編集者の本郷さんに見ていただいて、かなり改善された。同時に知人やその知人の昆虫素人さんたちにも見ていただき、わかりにくいところを教えていただいた。最後に光文社の編集方と同社の校閲部の方々にもかなり直していただいた。そういうわけで、実にいろいろな人に原稿を見ていただいた。

恥ずかしがって原稿を他人にあまり見せない人がいるが、見てくれる人には全員に見せるくらいの考えで、一般書については「本当の意味でいろいろな人」に見てもらったほうがいい。

本書に関してお世話になった方々、ありがとうございました。

おわり

ーーーー

余談だが、出版直後にとある若手生態学者からネタ本があるのではないかと疑いのメールが来て笑ってしまった。もちろんそんなものは一つもなく、自分で書き集めたネタである。特定の分類群や共通の生態をもつ昆虫の生態的な総説はもちろん有用だし、「2」にも少し書いたが、分類学の総説にあるちょっとした記述は穴場である。

今回の昆虫学会の学生の感想でも思ったし、ネット上の若手による論文紹介でも感じるところだが、系統と分類に関する知識がないと、なにが面白いのか、それが本当に面白い発見なのか、とんだ思い違いをしてしまうことがある。論文というのは方法論がしっかりしていれば、査読者によっては簡単に通ってしまうことがある。誰のとは言わないが、超一流雑誌に出た系統進化論文でも、甲虫屋の私から見たら、分類群の選択で大間違いのものもいくつかあった。

あとがきに分類屋の私がこんなものを書いて良かったのかと書いたが、いろいろ虫を見ている(まだまだだけど)からこその、こなれた視点で書けた部分はあったと思う。また博物館で子供たちの質問に答える日々も役に立ったと思う。総花的ではあるが、昆虫のすごさを一般の人に伝える手段としては、良いものができたのではないかと思う。