名古屋議定書説明会
午前中に名古屋議定書の説明会に出席し、これまでウェブ上やブログでそういう切り口はないようなので、在野研究者や標本収集家の視点でいくつか質問もしてきた。以下、現状と予測。明らかな誤解があればご指摘ください。
議定書の内容:http://www.env.go.jp/nature/biodic/abs/conf01.html
まず、採集旅行について。昆虫を多産する熱帯の多くの国が締結する。締結国に行くのであれば、相手国との同意書(PIC)と契約書(MAT)が必要になる。残念ながら、海外の研究施設とのこれまでのやりとりから、どこにも所属していない在野研究者がこのような書類を揃えるのは不可能に近いと思われる。ただしそれら書類の内容(具体的な種名の一覧が必要かなど)は未定なので、内容と当該国の法令によっては容易に発行する方法もあるかもしれない。
非商業目的の学術研究利用については、遵守措置の対象から除外するか、手続きを緩やかなものとなるよう配慮すべきという議論になっている。「除外」と「緩やか」では大違いで、ぜひ「除外」の方向に向かってほしいが、全体の文脈では後者になりそうな気がした。また、「非商業目的」は今のところ「大学等の非営利機関における利用」と定義されており(検討事項)、個人は対象外となっている。そもそも、本議定書は「個人で研究を行うことは稀であり」という前提で議論がされており、少なくとも現段階では、個人(在野)は蚊帳の外という状態にある。日本は在野研究者が多いので、そういう人たちはどうすればいいのかと聞いたところ、「それでも手続きは必要になる」という当たり前な話しに留まった。
「標本商」の輸入はどのような立ち位置になるのか聞いたところ、これまで無かった質問だったようで、虚を突かれた感じだった。回答は、観賞用の標本も遺伝資源として利用される可能性が残されているので、同様の手続きが必要になるだろうとのこと。まだ検討されたことのない事例なので、様子を見て考えていくことになるだろうとのことだった。
第三国からの持ち込み(欧米の博物館に収蔵されている標本の借り出しや、欧米の標本商からの標本の購入などがあたる)についても、当該国からの持ち出しに適切な処理が行われたか確認が必要になる。ただし、対象は施行後に取得された遺伝資源に限られる。よって、それ以前(おそらく2014年以前になる)に採集・輸入された標本の貸し借りや売買を第三国との間で行うことには支障はない(なんらかの手続きや公共機関による証明書の提示が必要かもしれないが)。ただし、提供国が、それぞれ個別に要望を出してくる(過去に遡って契約を求めたりする)可能性はあるので、楽観視はできない。
全般に、在野研究者や愛好家にとって重要な部分は、まだまだ検討段階で、決まっていない。担当者によると、「霞が関で想定していない遺伝資源の利用例もあるはずなので、ぜひパブリックコメントを出してほしい」とのことだった。それに尽きる。
パブリックコメント:http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=17565
議定書とは直接関係ないが、他国の遺伝資源保護を尊重する考えが浸透すると、各学会(甲虫学会や鱗翅学会のような在野研究者中心の学会)が標本の「出所」について、違法あるいは灰色に輸出されたものを掲載しなくなる可能性が高い(日本昆虫学会ではかなり以前にそうなった)。つまり、無許可で持ち込んだ場合、事実上研究に使えない標本になってしまうだろう。
また当然、愛玩用の小動物や熱帯魚も対象になるわけで、施行後の大変な混乱が予想できる(逆に、もし鑑賞標本や愛玩動物が対象外だったら、それを口実にいくらでも持ちこめるわけで、二重基準になってしまう)。そうなると、博物館関係者として気になるのは、標本商を介して輸入される大型美麗種の標本(国公立の博物館も利用)や、動物商が輸入する動物や熱帯魚(動物園や水族館も利用)の輸入である。どちらも研究や開発に利用される可能性はあるわけで、いったいどうなるのだろうか。
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「ひよこまめ雑貨店」さんにヒゲブトオサムシの判子を作っていただいた。素晴らしい出来! 敬愛するWasmann博士の名を冠したEuplatyrhopalus wasmanniの写真から作っていただいた。あちこちに押しまくる予定。