断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

達成感

先日、Current Biologyという雑誌に長年の調査結果の第一弾が論文として出版された。

Deep-Time Convergence in Rove Beetle Symbionts of Army Ants

軍隊アリ共生ハネカクシにおける古い時代からの収斂進化

http://www.cell.com/current-biology/abstract/S0960-9822(17)30198-7

簡単にいえば、主に軍隊アリ類と共生するハネカクシが、古い時代から12-15回独立にアリの姿(myrmecoid, myrmecomorphy)に進化したことが判明。この大規模な収斂進化を通して、生物進化における一つの方向性を示したとも言える。

形態から複数回進化であることは予測できていたが、まさかの多数回進化で、しかも適応放散的に最近進化した形質かと思っていたら、予想外に古かったのというのが驚きであり、重要な点である。結果に驚いたわれわれは何名かの著名な進化生物学の研究者にお伺いを立てたのだが、「教科書に載るような発見だ」と絶賛され、かなり自信がついていき、出版前にpre-printという形でネットで仮出版をしたのだが、それからさらに磨きがかけられ、それから投稿後、ほぼ一発で受理された(限りなくわずかなminor revision)。

DNAを使った系統学的な研究には新鮮な標本が必要だった。そこで、東南アジア各地、カメルーン、ペルーなど、地球を何周もして軍隊アリの行列を観察し、ハネカクシを追いかけてきた。12年をかけて、ようやく形態学的な視点で主要な分類群がすべて揃い、今回の論文となった。長年の調査結果がこのような形になってたいへん嬉しい。(もちろん、野外調査における観察記録も論文の補遺に含めている。)

調査を手伝ってくださった皆さん、自由にさせれくれた職場の皆さんのおかげ。とくに共著者のJoseph Parkerに会えたのは本当に幸運だった。彼とは2009年にロンドンで初めて会って意気投合し、そのあとマレーやペルーにも同行し、日常的にいろんなことを話した。事前にかなり話し合って草案を決めたが、それからのまとめの時点で彼の着想(グールドの引用など)による一般的で親しみやすい構成なければ今回の論文はありえなかった。大きな幸運にも恵まれた論文だった。

この論文はすごく達成感があるのだけど、何かと言うと、自分にしかできないことができたという自信がついたことだと思う。12年かけて既知の重要種を集めて研究してみようなんて、思い付き・知識・技術・執念において、ほかの人にはできないように思う。単発の発見モノではない。研究の独自性というのが強く言われているが、その点でこれ以上の独自性のある研究はあまりないのではないかと。元をたどれば好蟻性昆虫という面白い研究材料に出会えた幸運も大きい。

 

 

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