断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

出たみたい

日本昆虫分類学会誌に2本の共著論文が出た。吉富さんありがとうございました。

Vol. 21(2) - JJsystEnt

まずは、みなさん待望の日本産ハラブトハナアブの論文。教え子の弘岡君の修士論文で、一念発起して体裁を整え、この秋に投稿したもの。ハナアブの大家であるトンプソンさんが共著に入ってくださり、ヨーロッパとロシアで古い時代に記載された種のタイプ情報をいただくことができた。絵は弘岡君こだわりの九大式。私が死蔵していた丸ペンが活躍した。

HIROOKA, T., M. MARUYAMA and F. C. THOMPSON: Revision of the Flower Fly Genus Mallota Meigen, 1822 (Diptera: Syrphidae) from Japan.

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そして香川の方が主に採集されたハマベヨツメハネカクシ属の新種。この先生は継続的に香川の潮間帯性のハネカクシを調査されているが、ものすごい成果で、これまで全国的に珍種だったものを次々に香川で発見している。そのうちの一つが本種である。

ONO, H. and M. MARUYAMA: Giulianium tomokoae, a New Species of Intertidal Rove Beetle (Coleoptera: Staphylinidae: Omaliinae) from Japan

 

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その方の調査の様子のブログ

hylaの日記

 

クサアリ

正月前に軽くチェンマイに行くことになった。軽く1週間ほど。

年内に済ませたい論文がいくつかあって、それまでに終わらせるべく準備している。

クサアリの3新種も先が見えてきた。液浸標本が膨大にあって、なかなか進まなかったが、バイトの学生さんにずいぶん作ってもらって、かなり全体像が見えてきた。でもこれらの標本を全部扱うとなると頭が痛い。修士論文程度の分量だなと思う。分類の研究は標本がたくさんあればあるほど質がよくなるのだけど、1種に付き10頭以下くらいだと一番やりやすい。

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書評 湿地帯中毒

中島 淳「湿地帯中毒: 身近な魚の自然史研究 (フィールドの生物学)」(東海大学出版部)

たいへん面白かった。このシリーズは全部読んだが、間違いなく3本の指に入る。 内容の面白さもさることながら、漂漂とした筆致がとても良い。研究の過程にはさまざまな苦労があるに違いないが、それを押しつけがましく感じさせない。苦労を苦労と思わないのが研究者の資質と聞くが、著者はそれを地で行っているのか、あるいは文章としてそのように気を付けているのか。いずれにしてもその点で心から楽しく読める。

本書の中心は、カマツカとドジョウ類である。本書を読む前、正直、カマツカにそれほど興味はなかったが、こんなに面白い物語があるとは思わなかった。本書を読んでカマツカに興味を持つ人は多いだろう。ドジョウは昔から新種がいると言われていたが、誰も記載に手を付けなかった。そんななか、湧いて出たように分類学的研究を開始し、ささっと記載してしまったのが著者である。人間関係を上手に調整でき、行動力のある著者の一面である。

とにもかくにも彼は生まれ持っての「生き物屋」で、生き物を見る温かいまなざしと楽しそうな研究の様子にはこちらまで胸が熱くなる。この「フィールドの生物学」に一番ふさわしい著者の一人ではないだろうか。

コスタリカだより7 帰国しました。

一昨日の夜に福岡に到着。幸い、あまり時差ボケもない。昨日は久留米の青少年科学館で「きらめく甲虫」の出張展示の設営を行った。

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最後のグンタイアリの引っ越し観察では、バーチェルグンタイアリの女王を見ることができた。とても大きくて立派である。そして結構いい映像が撮れた(といってもiPhoneだけど)。素人撮影とはいえ、これほど鮮明な女王の映像は、知る限りないと思う。今回の調査でビデオカメラが欲しくなった。

https://youtu.be/YuB2jK_kcww 

(ここからYouTubeのサイトに行って、画面下の歯車の印をクリックして、最高画質で見てください。)

youtu.be

コスタリカだより6 帰る

現在、こちらは24日の昼の2時半。今日の夕方、こちらを出発し、深夜の便で帰路に就く。

金尾君があと3週間残り、調査を続けてくれることになっている。

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一昨日、ようやく良いツノゼミが採れた。これまで採ったことのない属で、たいへんうれしい。幼虫もかっこいい。

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また、昨晩は遅くまでバーチェルグンタイアリの引っ越しを観察する機会に恵まれた。このアリの引っ越しでは、大部分の共生者がアリの運ぶ幼虫や繭にくっついていて、見つけるのも困難だし、共生者の採集時に行列を刺激すると引っ越しを中断してしまうので、かなりの技が必要である。

最後の最後にこの採集にも慣れ、昨晩はいろいろなエンマムシやハネカクシを採集することができた。グンタイアリのエンマムシは行動といい形といい、最高に魅力的な甲虫である。

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山本君

教え子の山本周平君が甲虫学会で若手奨励賞を受賞した。おめでとう。

山本君は学部1年のときから私の部屋に出入りしていて、現在博士2年生。一番付き合いの長い学生である。がんがんと良い論文を書いている。

こういう賞は博士取得後の中堅研究者に与える学会が多いが、「研究の勢いの良さ」で評価し、まだ学生の山本君に与えるのは素晴らしいことだと思う。これぞ中身のある「奨励」ではないだろうか。

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「周平vs.周平」 写真は吉冨さんのブログから借用

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コスタリカだより5 爬虫類

イボヨルトカゲ、ドロガメ類、オウムヘビ、マツゲハブ。このほかにフェルデランスという大人でも噛まれると20分で死ぬというヘビを5回ほど見た。大人しいヘビなので、こちらに気づくとすぐに逃げていくが、森に入るには細心の注意を払っている。また、周辺の川にはワニが多く、昨晩もカエルを見に行こうと水たまりに足を踏み入れたら、足もとに子供のワニがいた。川には「泳いでいいけど、ワニに気をつけろ」との表示がある。

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コスタリカだより4 カエル

今日はずっと雨なので部屋でぼーっと休みながら写真を現像した。こちらは生き物全般に多いが、雨が多いせいか、とりわけカエルが目につく。とくにアマガエル科が多く、昨日のアカメアマガエルに代表される大型のものから、かなり小さいものまで多様である。

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どこにでもいるのは、ユビナガガエル科のナンベイウシガエルである。その次の種のヒキガエルもよく見かける。

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そして一番感動したのはヤドクガエルの2種(イチゴとマダラ)である。とくに前者は宿泊所の玄関の前から森の奥まで、いたるところにふつうに見られる。

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あるとき、イチゴヤドクガエルを撮影しようと追いかけたら、触ってもいないのに、いきなり死んだふりをした。これには驚いた。

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コスタリカだより3

残すところあと5日。3週間はあまりに短い。しかし、ここ数日、見たかったものを見ることができている。

一番見たかったアカメアマガエル。道を歩いていたら、上からボトっと落ちてきた。

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金尾君がメキシコエボシツノゼミを見つけてくれた。普通種のようだが、ここはツノゼミ全般に少なく、2週間目にして、今日初めて見つかった。

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一見、ただのアリに見えるけど、アリの腹部に見えるのは、実はエンマムシ。この種は腹柄節(アリの見かけの胸部と腹部の間にある節)専門に噛みついて移動する。メキシコグンタイアリの引っ越しの行列だけで見つかる未記載種。ご想像のとおり見つけるのは結構難しい。しかしこのアリの腹部は黄色っぽいので、つやのある黒っぽい腹部のアリを探すと、おのずとこのエンマムシが見つかる。

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カンボジア初の好白蟻性ハネカクシ 文藝春秋

卒業生の金尾君の最新論文(博士論文の一部)が出版された。カンボジアから8新種を記載した大変な力作。カンボジア初の好白蟻性ハネカクシの記録ともなった。主にアンコールワット周辺で採集したハネカクシが研究材料となっている。

http://www.mapress.com/zootaxa/2015/f/zt04044p223.pdf

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関係ないけど、最新の文藝春秋に「植物はすごい」の田中修先生との対談が出ている。

ベストセラー対決
昆虫と植物、どっちがすごい?   丸山宗利  田中 修

gekkan.bunshun.jp