断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

書評 湿地帯中毒

中島 淳「湿地帯中毒: 身近な魚の自然史研究 (フィールドの生物学)」(東海大学出版部)

たいへん面白かった。このシリーズは全部読んだが、間違いなく3本の指に入る。 内容の面白さもさることながら、漂漂とした筆致がとても良い。研究の過程にはさまざまな苦労があるに違いないが、それを押しつけがましく感じさせない。苦労を苦労と思わないのが研究者の資質と聞くが、著者はそれを地で行っているのか、あるいは文章としてそのように気を付けているのか。いずれにしてもその点で心から楽しく読める。

本書の中心は、カマツカとドジョウ類である。本書を読む前、正直、カマツカにそれほど興味はなかったが、こんなに面白い物語があるとは思わなかった。本書を読んでカマツカに興味を持つ人は多いだろう。ドジョウは昔から新種がいると言われていたが、誰も記載に手を付けなかった。そんななか、湧いて出たように分類学的研究を開始し、ささっと記載してしまったのが著者である。人間関係を上手に調整でき、行動力のある著者の一面である。

とにもかくにも彼は生まれ持っての「生き物屋」で、生き物を見る温かいまなざしと楽しそうな研究の様子にはこちらまで胸が熱くなる。この「フィールドの生物学」に一番ふさわしい著者の一人ではないだろうか。