断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

夜明け近くに雨音で目覚め、8時半までウトウトする。標本整理や自前トラップの準備をし、9時半にロッジを出る。

朝食は豚肉のカレーと筍の炒め物をかけたごはん。

昨日片山君がHeaw Suwatにシフターを忘れたということで、そこへ向かう。こちらとしては置き去りにしたヒメサスライアリの様子見ができてちょうどよい。

そのヒメサスライアリは容易に見つかり、小松君が新たな仮巣を見つけてくれた(Ae10)。早速、仮巣を丸ごとバケツへ放り込み、篩いを使って少しずつ仕分けしていく。小松君と片山君はシフターや篩いで周囲の土壌を篩う。

早速現れたのは全く見たこともない珍奇なヒゲブトハネカクシで、2.5mm程度と小型ながら一目で新属新種とわかるものだった。狂喜のあまり、おおっーっと叫んでしまった。続いてAenictobiaというフィリピンからマレーシアに広く分布するハネカクシの新種が得られた。その他、大型のノミバエやVestigipodaも現れた。

しばらくしてアリそっくりの新属新種ハネカクシが現れるが、情けないことに、あまりにもアリに似ていたため、篩いの受け皿のなかで見失い、そのまま居なくなってしまった。最も欲しかった類のものなので、一転、泣きたいほどに悔しくなる。

しかし、巣の周辺でアリの集まっている場所を徹底的に篩い、それから1時間後にようやく1頭を見つけ、さらに片山君がもう1頭を見つけてくれた。ほのぼのと幸せな気分になる。小松君にはどうしてこんなものを見失うのかと鼻で笑われた。

<これらの写真は追々。>

仕分け作業中は猛烈にアリに刺されまくった。数日前にも書いたが、この種は大変攻撃的なうえ、刺されると大変痛い。最初は蚊に刺された程度に腫れるのがわかったが、だんだんと隙間がなくなってきて、その上に刺されることを繰り返し、最後には腕が少し太くなってしまった。腫れが引くと刺された痕が赤い点となって残るので、帰って風呂でその点を数えてみたところ、片手だけで300ヶ所以上あった。しかし採集している間は上気しているので、痛みはほとんど気にならない。小松君も片山君もかなり刺されていたが、二人ともアレルギー体質でないようでよかった。

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14時頃に食堂へ戻り、遅い昼食とする。牛肉と太麺のスープにソムタム。

15時くらいから風が吹き始め、空が暗雲に覆われ始めた。雨が降りそうだし、疲れも溜まっているということで、片山君と魚を捕まえて遊ぶことにした。ペットボトルの口を切ってビンドウを作る。ミミズを刻んでビジターセンターの近くの池に沈めたところ、ものの数分で片山君のビンドウにグラミーの一種がかかった。

16時を過ぎ、小雨のなか、片山君とFITの様子を確認しながら森を歩く。するとFITのすぐそばに今朝と同じ種のヒメサスライアリを見つけた(Ae13)。ちょうど移動中で、私が仮巣を探している間に片山君に行列の観察と蟻客の採集をお願いする。仮巣はトゲトゲのラタンヤシの根元のネズミの古巣にあるようで、明日改めて観察することにした。ものの30分ほどの間に片山君が上記のAenictobiaを数頭とアリそっくりの新属新種を1頭採集してくれた。

雨足が強まり、17時に食堂へ戻る。夕食は豆腐のスープとカオパッを片山君と半分。小松君がハシリハリアリから昨日と同じ新種のWroughtonilla属のハネカクシを2頭採集してくれていた。

19時近くに雨足が弱まったので、再び森へ出る。雨の日は倒木や朽木に虫が少ない。木に登るジャコウネコ科のParadoxurus hermaphroditusを見つけた。なかなか可愛らしい。昨日女王を採集してしまったヒメサスライアリの行列が、方向と目的を失ったかのように幼虫を抱えて右往左往している。大きな巣だったため、約200mにわたって行列ができていた。昨日ヘビに食われたものと同種のカエルを撮影したころ、再び雨足が強まったので、20時にロッジへ戻る。小松君は4頭のヤマアラシHystrix brachyuraの群れに至近で出会ったそうだ。

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ロッジへ戻ると、24日にアシナガキアリの巣から採集したアリスアブの蛹が羽化していた。なかなか美しい種である。どうにか帰国まで生かせれば、東京で展翅ができるのだが、死んでしまって腐らせはしないか、少し心配でもある。

今日は一つのヒメサスライアリの巣からハネカクシ3属3種、ノミバエ3種、シミ、ダニを得たのだが、いずれも新種であろう。決して運良く採ったというわけではない。上のように刺されながら採集する物好きは世界に一人もいなかった。

今日は充実した採集だった。23時に就寝。