断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

橋本さんとは研究の相談も一つさせていただいた。このブログ(といっても先代のものだが)にもよく登場するヒメサスライアリAenictusに関するものである。
Wikipedia:ヒメサスライアリ http://en.wikipedia.org/wiki/Aenictus
ヒメサスライアリには2つの分類体系がある。これはなかなか面白いもので、よくある複数の研究者の意見の対立といったものではない。一つは働きアリによる体系、もう一つは雄アリによる体系である。世界から約100種が記載されているが、半分は働きアリによって記載され、もう半分は灯火に来た雄アリによって記載されている。そして問題は大部分の種で働きアリと雄アリの対応がついていないことである。
主として働きアリの材料をもとにこの属をまとめたE.O.Wilson(1964)はその論文のなかで、「雄の体系を捨ててしまうべきだ」という意見を述べた。しかし今は、豊富な材料が手に入れば、DNAによって簡単に問題が解決される可能性がある。言わずもがな、これぞ(いま流行の)DNAバーコーディングの好材料である。
実はすでに雄アリの材料を集めていて、まだまだ不足はしているが、一つ試してみようかと考えている。アジアのヒメサスライアリについては、橋本さんと鹿児島の山根さんが先鞭をつけられているので、ご意見を伺ってみる必要があった。橋本さんは「どんどんやってください」と言って下さり、一安心した。これから共同でいろいろ進めさせてもらえればと思っている。
雄は灯火に来るのだが、採集には少しコツがある。薄暮活動性(ほとんど知られていない)なので、普通に夜間に灯火採集をしたのでは採れない。日没の前、森の中がようやく暗くなったころに飛ぶのである。このことは逆に、満月であろうと月齢に惑わされずに採集ができることを意味する(通常、月夜は灯火に虫が集まりにくい)。このことに気をつけてあちこちで雄を取ると、飛躍的に調査が進むであろう。雄と働きアリの対応がついたとき、普通種の学名に大きな混乱が生じる可能性があるが、そこは便宜性を考慮した分類学的な措置をする必要があろう。