断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

ひとの間

福岡に住んで10年が経つが、この街をとても気に入っている。食べ物、人柄、気候、たくさんある。しかし、気に入っているだけにこうやって良い部分をあげてもキリがないので、あえて嫌な点をあげてみる。それは地下鉄の乗り方である。かなり混んだ車内であっても、奥へと進む人は少なく、みんな入り口のほうに立っている。かといって降りようとしても、一時的にどいたり、降りたりしてくれない。そして、空いている席に座ろうとしても、七人掛けの席にバラバラと五人くらいが座っていて、中途半端に隙間が空いているだけで、座るに座れない。どう見ても混んでいるのに、座席に荷物を置いて悠々と座っている人もたまにいて、思わず呆れてしまう。東京でそんなことがあったら、怒る人がいるかもしれない。あるいは舌打ちして席を空けさせる陰険な人もいるだろう。しかし不思議と福岡では誰も気にしない。少なくとも何も言わない人が多い。ハンドバッグを置いている人も、混んでいることに気づいたらヨッコラショと席を詰めて、なんとなく誰かが座る。要するに人びとの間に鷹揚な時間が流れているのだ。福岡は人柄がいいと言ったが、考えてみれば地下鉄の乗り方も、そんな田舎の良い部分の表れなのかもしれない。東京出身者としては、それでもたまにイライラとしてしまうのだが。