断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

あけましておめでとうございます

今年もよろしくお願いします。

2015年もあわただしい一年でした。博物館では春から秋にかけて3つの展示をひらき、とくに夏場は関連行事に追われました。

『きらめく甲虫』(幻冬舎)、『アリのくらしに大接近』、『アリの巣のお客さん』(あかね書房)、『昆虫はもっとすごい』(光文社新書)と、本もいくつか出すことができました。

研究面では、10年続けた熱帯の好蟻性ハネカクシの調査もまとめの時期に入り、その実験を進めました。新年度早々に論文が出そうです。

また、2月のタイ、3月のマレーシア、4月のラオス、5月のカメルーン、8月のタイ、10月のコスタリカ、12月のタイと、それぞれ短いながらも、何度か調査に行くことができました。とくに5月のカメルーンは珍奇なハネカクシやツノゼミをたくさん得ることができ、印象的でした。

今年は今月末からのフランス領ギアナを皮切りに、3月のマレーシア、4月のラオスとタイ、5月のケニア、6月のアメリカなど、すでにいくつかの海外調査がひかえています。

学位論文提出予定の指導学生も2人おり、忙しい1年になりそうです。

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写真は年末のタイで採集した念願のマガタマツノゼミCamelocentrus sp. 

メクラチビゴミムシ

来年3月に昆虫学会と応用動物昆虫学会の合同大会が大阪でひらかれる。今回の「発表要綱」を読むと、「差別用語を含む昆虫和名などの使用は避けてください」という記述があり、少し驚いた。

昆虫学会第76回・応動昆第60回合同大会-大阪府立大学 | 発表要綱

おそらくこれは、日本の昆虫のなかで「差別用語」とされる言葉を残す「メクラチビゴミムシ」や「メクラゲンゴロウ」に対するものであろう。

他の昆虫では、メクラカメムシやメクラアブというものがいたが、前者はカスミカメムシに、後者はキンメアブにそれぞれ改称された。どちらも複眼をもち、差別用語である以前に、実態と異なるというのが改称の理由である(それでもわざわざ変える必要性を感じないが)。

しかし、メクラチビゴミムシやメクラゲンゴロウは実際に複眼を欠き、和名は実態をよく表している。

私は改名に反対である。

魚類学会では早々に差別用語を含む和名の改称を行ったが、明らかな行き過ぎである。たとえばイザリウオという魚がいるが、これはカエルアンコウに改名された。「躄る」という差別用語を含むというからである。しかしこの時代、「躄る」の意味を知っている人が国民の何割いるだろうか。ほとんど誰も知らないだろう。それでも差別用語になるのだろうか。

同様に「めくら」も、「躄る」ほどではないが、ほとんど死語になりつつある。いまどき、めくらという言葉を使って視覚障害者を嘲るような人はいるだろうか。逆に差別用語とはされず、生物和名に広く使われている「ちび」のほうが、よほど今でも一般的に使われる嘲笑する言葉であろう。

そもそも、差別は言葉そのものに宿るものではない。使う人の心の中にあるものであって、どんな言葉を使おうが、差別になるときにはなる。「めくら」を「めなし」に変えたところで、視覚障害者を差別する人が使ったら、使い方次第でたちまち「めなし」も差別用語に変化する。

ゴミムシが怒りだしたならともかく、あくまで生物に対して使われている言葉に対して、「差別用語撤廃!」などと神経質になるのは何ともバカげた話しではないだろうか。

ちなみに英名ではいまだに「blind」のつくものが普通に使われており(もちろん日本語の「めくら」とは完全に同義ではないが)、「sight-impaired」などと言い代えられてはいない。

おそらく生物和名から差別用語をなくそうとしている人たちは、ごく稀に現れる不快だと文句をいう人に対する対抗策として、事前に改名をしようというつもりなのだろう。臭いものにはフタというわけである。もしそうだとしたら、気にしすぎというほかない。

手前みそだが、拙著『昆虫はすごい』には、あえて伝統的に「メクラ」のつく和名を3つも登場させたが、13万部も売れて、誰からの文句もない。「世間はそれほど気にしていない」ということがよくわかった。

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蛇足だが、メクラチビゴミムシやメクラゲンゴロウがこれまで改名されなかったのは、この仲間の研究を牽引してきた上野俊一先生の信念によるところも大きい。われわれの世代以前の日本の甲虫屋で、上野先生の薫陶を受けなかった人はほとんどいないので、われわれの世代でこれらの和名が改称されることはおそらくないだろう。

いきもにあ

週末に京都で開かれていた生き物好き系文化祭「いきもにあ」に少しだけ顔を出した。すばらしい行事だった。

ホーム - equimonia

京都市内が込みまくっていて、京都駅からバスで一時間もかかって、ようやく会場に着いたら、もう残り1時間しかなく、いそいで各出し物を見に行く。「博物ふぇすてぃばる」と似たような雰囲気だが、会場がより広々としていて、歩きやすかった。

あちこちで吟味して、いくつか心が動いたものを購入した。ついでに懇親会にも参加。始めてお話しする人も何人かいた。

「あまのじゃくとへそまがり」さんのアリスアブの革細工。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3222431501/

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「カエル工房」さんのアマガエルのジオラマ。ものすごい完成度。

カエル工房~リアルかえるグッズ、レプリカ、フィギュア、ジオラマ、かえる 工房~

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「イワシ金属化」さんの錫合金のクロベンケイガニ。

イワシ金属化

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おなじみ、「みのじ」さんのダンゴムシトート。

http://www.minoji.net/

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ヒトダマハネカクシ

ヒトダマハネカクシの生態に関する論文が出版された。

Molecular Ecology 11/2015; DOI:10.1111/mec.13500

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/mec.13500/abstract

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新しいフラッシュ

中国製のマクロツインフラッシュを落手。微小種のマクロ撮影する人みんなが「こんなのが欲しかった!」と悶絶する設計。島田さんや吉田さんなど、知り合いにも買った人がいるので、壊れやすさ等をお試し中。非常に軽いし、使い勝手がいいし、これで頑丈だったら言うことなし。

しかも、279ドルと、キャノンの純正品の半額以下。一番怖いのは遠征で運ぶときに壊れることなので、近場で使う人は買って損はないと思います。(たぶん。) 

Flexible Macro Twin Flash KX800 | Venus Optics - Specialist in Macro Photography

なんでこのフラッシュがいいかというと、マクロ撮影ではディフューザーと発光部の距離をどうとるかが重要で、その点で、距離をかせげ、方向を自在に決められるのが良い。

なお、微小種のマクロ撮影は、ディフューザーの良し悪しが何より重要。いろんな人が試行錯誤しているが、その点でも、このフラッシュはさまざなま形式のディフューザーに応用できる。下の記事はアレックス=ワイルドのディフューザー解説。

A simple diffuser for Canon's MT-24EX macro flash - Scientific American Blog Network

ちなみにこのフラッシュをネットで見つけて、最初に島田さん教えたら、さっそく試してくれた。これを見て私も買おうと思った。ちなみにこの記事の写真ではディフューザーがないけど、島田さんも秘密のディフューザーを使っていますので、念のため。

ありんこ日記 AntRoom:ツインストロボ KX800

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出たみたい

日本昆虫分類学会誌に2本の共著論文が出た。吉富さんありがとうございました。

Vol. 21(2) - JJsystEnt

まずは、みなさん待望の日本産ハラブトハナアブの論文。教え子の弘岡君の修士論文で、一念発起して体裁を整え、この秋に投稿したもの。ハナアブの大家であるトンプソンさんが共著に入ってくださり、ヨーロッパとロシアで古い時代に記載された種のタイプ情報をいただくことができた。絵は弘岡君こだわりの九大式。私が死蔵していた丸ペンが活躍した。

HIROOKA, T., M. MARUYAMA and F. C. THOMPSON: Revision of the Flower Fly Genus Mallota Meigen, 1822 (Diptera: Syrphidae) from Japan.

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そして香川の方が主に採集されたハマベヨツメハネカクシ属の新種。この先生は継続的に香川の潮間帯性のハネカクシを調査されているが、ものすごい成果で、これまで全国的に珍種だったものを次々に香川で発見している。そのうちの一つが本種である。

ONO, H. and M. MARUYAMA: Giulianium tomokoae, a New Species of Intertidal Rove Beetle (Coleoptera: Staphylinidae: Omaliinae) from Japan

 

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その方の調査の様子のブログ

hylaの日記

 

クサアリ

正月前に軽くチェンマイに行くことになった。軽く1週間ほど。

年内に済ませたい論文がいくつかあって、それまでに終わらせるべく準備している。

クサアリの3新種も先が見えてきた。液浸標本が膨大にあって、なかなか進まなかったが、バイトの学生さんにずいぶん作ってもらって、かなり全体像が見えてきた。でもこれらの標本を全部扱うとなると頭が痛い。修士論文程度の分量だなと思う。分類の研究は標本がたくさんあればあるほど質がよくなるのだけど、1種に付き10頭以下くらいだと一番やりやすい。

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書評 湿地帯中毒

中島 淳「湿地帯中毒: 身近な魚の自然史研究 (フィールドの生物学)」(東海大学出版部)

たいへん面白かった。このシリーズは全部読んだが、間違いなく3本の指に入る。 内容の面白さもさることながら、漂漂とした筆致がとても良い。研究の過程にはさまざまな苦労があるに違いないが、それを押しつけがましく感じさせない。苦労を苦労と思わないのが研究者の資質と聞くが、著者はそれを地で行っているのか、あるいは文章としてそのように気を付けているのか。いずれにしてもその点で心から楽しく読める。

本書の中心は、カマツカとドジョウ類である。本書を読む前、正直、カマツカにそれほど興味はなかったが、こんなに面白い物語があるとは思わなかった。本書を読んでカマツカに興味を持つ人は多いだろう。ドジョウは昔から新種がいると言われていたが、誰も記載に手を付けなかった。そんななか、湧いて出たように分類学的研究を開始し、ささっと記載してしまったのが著者である。人間関係を上手に調整でき、行動力のある著者の一面である。

とにもかくにも彼は生まれ持っての「生き物屋」で、生き物を見る温かいまなざしと楽しそうな研究の様子にはこちらまで胸が熱くなる。この「フィールドの生物学」に一番ふさわしい著者の一人ではないだろうか。

コスタリカだより7 帰国しました。

一昨日の夜に福岡に到着。幸い、あまり時差ボケもない。昨日は久留米の青少年科学館で「きらめく甲虫」の出張展示の設営を行った。

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最後のグンタイアリの引っ越し観察では、バーチェルグンタイアリの女王を見ることができた。とても大きくて立派である。そして結構いい映像が撮れた(といってもiPhoneだけど)。素人撮影とはいえ、これほど鮮明な女王の映像は、知る限りないと思う。今回の調査でビデオカメラが欲しくなった。

https://youtu.be/YuB2jK_kcww 

(ここからYouTubeのサイトに行って、画面下の歯車の印をクリックして、最高画質で見てください。)

youtu.be