断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

午前中にテストの採点をして送った。

あるオムニバスCDにChet Bakerの曲が入っていて、気に入ったので、CDを2枚買った。中性的なやさしい声であるが、言いようのないくらい上手い。トランペットも上手い。とくに気に入った曲はこの「It Could Happen to You」に入っている「Do It the Hard Way」である。少し前に将来の岐路で悩んだときにこの曲に出会い、なにか運命を感じた。厳しい道を選んだほうが結局はいいのだ。

この人は若くしてビルから落下して死んだ。ある種の芸術家によくあるように、麻薬に溺れた結末だ。カリスマ歌手―麻薬と酒、というよくある構図である。カリスマの死に様としては、ボルネオで行方不明になった鹿野忠雄のように、昆虫学者はジャングルで野垂れ死がかっこいい。

そうえいば、こういった話しは先日のマレーシアでも話題にのぼった。年取ると死に方が気になってくるそうだ。

執筆原稿のため、好蟻性昆虫の写真を撮りためている。一日一枚。今日はもうChet Bakerのジャケットを貼ってしまったので、昨日の日記に一つ貼り付けた。これは、Paramorphocephalus sp.というミャンマー産の好蟻性ミツギリゾウムシの一種で、この仲間の寄主はオオアリ属Camponotusのアリである。アリよりもずっと大きいが、ちゃんとアリの巣のなかにいる(写真の種に関しては、生態は不明)。ヨーロッパ南部からアフリカ北部には、近縁のAmorphocephalus coronatusという種がいて、この種の生態はよくわかっている。アリに口移しで餌をもらうのだが、興味深いことに、ミツギリゾウムシのほうも餌を吐き出してアリに与える。好蟻性昆虫が口移しで餌をもらうのはよくあることで、普通は分泌物やら排泄物やら全く別の代価を支払うのだが、胃の内容物を交換するというのは面白い。きっとそれぞれの成分は異なり、互いに美味しいものとして受け渡しするのだろう。人間と家畜の関係でいえば、人間が口移しで牛に餌を与え、牛が吐き出したものを人間が嗜好品として食べるようなものだ。おぇ~。

なお、このミツギリゾウムシの仲間は日本にも2属2種(アカオニミツギリゾウムシ、ツヤケシオニミツギリゾウムシ)が分布しているが、どちらも採集例の非常に少ない珍品で、もちろん生態など何もわかっていない。大型の樹上性オオアリ属(アメイロオオアリ?)の巣にいると考えている。とても欲しい。