断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

今日はGunung Gede(ゲデ山)にあるチボダス植物園Kebun Raya Cibodasへ行くことになった。今日も二手に別れ、澤田さんと私はカホノさんの車でチボダスへ直行し、高久さんと小林さんはハルティニさんの車で牛糞を見ながらチボダスへ行き、午後に落ち合うことになった。ボゴールからチボダス植物園へは車で1時間半ほどで、標高1400mほどの山地にある。一昨年の調査でもここを訪れ、FITではかなりの成果をあげることができた。

途中でパンと水を買い、チボダスへ着いたのは9時半だった。今日の私の目的は、カタアリの一種Dolichoderus sp.と共生するカイガラムシの撮影である。久保田先生の「ありとあらゆるアリの話」に、チボダスでの目撃談が書かれており、いつか撮影したいと思っていたが、昨日、カホノさんが偶然にこの虫の話をしてくださり、是非是非見せてくださいということで、今日は案内していただくことになった次第である。

着いて早々、カホノさんがカイガラムシの場所を案内してくださった。そこは植物園中腹の便所の裏で、前回来たときに毎日通っていた場所だった。キク科とおぼしき背の高い草本の上部に大型のカタアリが集まっている。そして、それを良く見ると、しずく型の不思議な虫にアリが随伴しているではないか。カイガラムシだとわかったときには、思わず興奮してしまった。アリを脅かすと、次々にカイガラムシが背中に這い上がるが、おそらく、アリが何らかの合図を出しているのであろう。また、アリが体を低くして、小さなカイガラムシでも背中に登れるようにしていた。アリには弱い分業があるようで、カイガラムシを運ぶ役と、コロニーをガードする役がいるようだった。驚いたことに、カイガラムシがまだ背中に登っていない間は、カイガラムシを運ぶ役のアリは、いくらつついても逃げようとせず、回収が終わると、攻撃にまわる。背中にカイガラムシを乗せて威嚇する様は、幼児を背負って戦う母親のようで、なんだか少し健気だった。カイガラムシには若虫から成虫までが見られ、成虫ではアリの胸部が完全に隠れる程度の大きさだった。場合によっては10頭以上のカイガラムシが背中に乗ることがあった。そんなこんなで2時間以上、アリとカイガラムシの観察と撮影を行い、気がついたら昼になっていた。

パンを食べ、林に入って好蟻性昆虫でも探そうかというとき、急に雲行きが怪しくなり、涼しい風が吹いてきた。カメラを持っているので、念のために折り返し車へ戻ることにする。駐車場の前でMyrmicariaというアリの撮影をしていたら、やはり雷が鳴り、みるみる暗くなり、やがて大雨になった。カホノさんはもう戻ってきていて、澤田さんを待つ間、しばし旧食堂のテーブルの上で昼寝をした。1時間半後に澤田さんも戻ってきて、早々にボゴールに引き上げることにした。途中、パダン料理で遅い昼食。電気のない、真っ暗な店だった。

ボゴール植物園の宿舎に着き、2日目に仕掛けたFITの様子を見に行く。やはり、虫はほとんど入っていなかった。モトサスライアリDorylus laevigatusの雄が3頭も落ちていたのが唯一の成果。

夕飯もパダン料理。ビールで23時過ぎまで歓談。

写真はアリとその背中に乗るカイガラムシ

*帰国後に調べたところ、カイガラムシHippeococcus montanus Reyne 1954、アリはDolichoderus gibbifer Emery, 1887と判明。