断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

朝起きると、動物学博物館のウダさんが迎えに来ていた。聞いていなかったが、今日はウダさんがGunung Salak(サラ山)へ採集に同行してくださるそうだ。今日も二手に別れ、高久さんと小林さんは動物学博物館でハルティニさんと仕事、澤田さんと私が採集に行くことになっていた。ところが、ここ数日、澤田さんの腹具合が悪く、今日は私一人で採集に行くことになった。今朝はロシコンさん(去年の昆虫学会賞をとった方)も宿舎に来ていて、来年度から始まる大規模なインドネシア調査の話をしてくれた。とても行きたくなった。

今日はなんとAngkutan kota(アンコタ)という乗り合いタクシーで、サラ山へ行くそうである。大丈夫だろうか。最初はビズというオート三輪の乗り合いタクシー(すべて日本の中古車!)で行く予定だったので、まだマシかもしれない。アンコタに乗ろうと道路を渡るとき、延々と続く町並みの先にサラ山が一望できた。サラ山は、日本でいえば各地方の小富士に例えられるような名山で、山容がとても美しい。オランダ統治時代は一級の採集地だったようだが、今ではその影はなく、中腹まで人家と畑が続き、その上にわずかな二次林を残すのみである。

アンコタに揺られること1時間、ようやく中腹の集落のはずれまで来た。ウダさんも初めて来るようで、適当に山の中に入る。インドネシアは日本とは違い、頻繁に人の入らない森林はほとんどないので、どこへ入っても、きちんと道が通っている。

途中でアリなどを採集しつつ、3時間ほど上ると頂上が近づいてきた。ウダさんはビーチサンダルですいすい登っているが、こちらはだんだん疲れてきた。印象的だったのは、トゲオオハリアリDiacamma sp.に擬態するオオアリで、最初は間違え、刺されないように注意してしまった。先日のマレーシアでもトゲオオハリアリ擬態のオオアリを見たが、今日の種は頭が赤かった。おそらく同種の地域変異だろう。そのオオアリを採集しているときに、疼痛が走ったと思ったら、ハシリハリアリLeptogenys sp.の行列に座っていた。注意すべきものを間違えたようだ。また、Myrmicaria属のアリが非常に多かった。この仲間のアリは、樹上に紙状の巣を作るもの(樹上型)と、木の根元や地面に巣を作るもの(地中型)がいて、今日の場所には2タイプとも多かった。このアリの地中型はCerapterusという大型のヒゲブトオサムシの寄主で、博物館で両者が一緒にマウントされた標本を見たことがあった。いつか環境の良い場所で巣を掘り起こしてみたいものだ。

山頂付近で雲行きが怪しくなったので、引き返すことにした。すぐに雨が降り始め、急いで山道を下る。13時過ぎにようやく集落に着き、アンコタを拾ってボゴールの町へ戻った。到着後、ウダさんとパダン料理を食べ、宿舎へ戻る。ああ、今日も虫採りがほとんどできなかった。

昼寝をしていると、高久さんと小林さんたちが戻ってきた。午後から糞虫の採集に行ったようで、ナンバンダイコクコガネを採集してきていた。うらやましい!

夕飯はアンコタに乗って、おしゃれなレストランへ。といっても値段はいつも行く店の2割り増し程度。生演奏をしていて、ずっとスティーヴィー=ワンダーの曲と歌が流れていた。ヤギのスープ、グラミーのから揚げ、豆腐の鉄板焼きのようなもの、野菜炒めなどを食べる。ここの料理はみんな美味しかった。懲りずにメロンジュースを頼んだが、甘すぎず、しっかりメロンの味がした。

夜はビールを飲みつつ、Tentative final reportというLIPIに提出する書類を書く。調査の成果と今後の研究の展望を書くわけだが、そもそもほとんど虫が採れていないので、書くことがない。

写真はトゲオオハリアリ擬態のオオアリ。