断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

もう一つ、多くの成果を挙げるのに必要な採集がある。それは土壌採集である。通常の採集では採れない土壌性の甲虫が採れる。まず、シフターという道具を使い、土壌を採集する。シフターの中段に1センチ目くらいの金網があり、地表の落葉落枝とその下の土をシフターの上から入れ、ゆさゆさと篩うと、シフター底部にきめの細かい土壌が溜まる。つまり、虫の含まれない、大きな落葉落枝を選別する道具である。

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その土壌を以下のウィンクラー装置にかける。ウィンクラー装置は大きな筒状の袋で、中に網の袋がぶらさげてある。その袋に採集した土壌をいれ、下にあるコップで網目から出た虫を受ける。上下を紐で結び、上は昆虫の逃げ出しを防ぎ、下は抽出時の漏斗の役目を担う。熱などは加えず、乾燥に任せて抽出するが、効率は極めて良い。乾燥しなくても、土の中にいる昆虫は、棲み良い場所を求めて動き回るものなので、たいていのものは仕掛けて数時間で落ちる。しかし、しぶといやつもいるので、たまに中の土をかき回すのがコツである。

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ジュネーブの博物館には世界最大級の土壌性昆虫の収蔵があるが、そのほとんどは、70年代から80年代にかけ、同博物館の職員だったIvan Löbl博士、そして同氏の親友であり、現在はカナダの農務省にいるAles Smetana博士による採集品である。彼らは毎年、インドや東南アジアの諸国をめぐり、土壌性甲虫を採りまくり、巨大な収蔵を築き上げた。そして、彼らの行った採集法は、上にあげたものそのものである。わたしは片手間なので多くても5基ほどしか掛けないが、彼らは1回に20基も掛けるそうである。この採集で最も大変なのが、土壌を採集するところで、とくに熱帯では、土壌が薄いので、1基分の土壌を採るのに、休まず働いて1時間はかかる。そして1時間もやれば相当に疲れる。20基とは聞くだに恐ろしい労働量である。また、土壌採集では、良い土を見極めるに相当の熟練が必要で、その点で技術的に非常難しい採集法である。彼らの採集品を見るとたいへん質が高く、こちらの5基と向こうの20基でも、単純に4倍ではないと感じた。

ちなみに、Löbl氏はデオキノコムシとアリヅカムシ、Smetana氏はハネカクシ亜科を専門とする。両氏ともチェコ人で、若いころにチェコを離れ、その後世界的な研究者となった。旧北区の甲虫カタログは両氏の主導による。

写真のウィンクラーはスロバキア製で、同地の工学者兼昆虫学者が設計、作成、販売している。重さ、素材の風通しの良さや、処理できる土の量、そして価格、どれをとっても良いもので、いまではLöbl氏をはじめ世界中の甲虫屋が使用している。