断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

25年以上記録がなく、絶滅も心配されていたオオズウミハネカクシLiparocephalus tokunagaiの再発見の記録が、今月届いた日本甲虫学会のElytraという雑誌に掲載された。2010年4月、私は著者からこの一報を聞き、再発見地である愛媛県に駆けつけた。これはその時の一枚である。潮間帯性のハネカクシなのだが、非常に大型(6ミリメートルほど)で、その名の通り頭が大きくてかっこいい。
Senda, Y. (2011) Rediscovery of the intertidal rove beetle, Liparocephalus tokunagai Sakaguti (Coleoptera, Staphylinidae, Aleocharinae) from Shikoku. Elytra, New Series, 1(2): 187-189
本種は潮間帯海藻の根元に生息し、干潮時に活動する。近年、「磯焼け」と言われる現象で、日本の潮間帯海藻が激減しつつあり、過去に本種の得られた産地の環境はことごとくダメになっている。現在の環境省レッドリストでは「情報不足」だが、実情はもっと深刻で、ずっと上のランクに位置づけられるべき種である。
本種の分布は三浦半島以南、鹿児島以北で、極めて狭い範囲の緯度にある。関東周辺の産地は、私を含め、いろいろな人が探しているが、ほぼ消滅したと言ってよい(わずかに残されている可能性はある)。日本海側では生息の可能性は低い。東海地方にも良い環境はない。紀伊半島もダメ。残されているのは四国と九州の一部(未発表)である。磯焼けの原因には諸説あるが、私は単純に温暖化だと思っている。このまま温暖化が進めば、現在の分布状況から考えて、本種は確実に絶滅するだろう。
ちなみに本種の命名者は「図説 世界の昆虫」を書いた阪口浩平。発見の経緯はその「ユーラシア編」に詳しく書かれている。タイプ標本は戦災で焼失した。