断虫亭日乗

過ぎ去る日々の思い出をつづるだけ

宝飾品の趣味はない(もちろん買う金もない)が、私の持ち物にも宝石に位置づけられるものがある。それは化石の昆虫を封じ込んだ琥珀である。琥珀とは植物の樹脂が土中で化石化したものである。樹脂が木から流れ出る際、飛んできて樹脂にぶつかった昆虫がそこに貼り付き、封じ込められ、樹脂とともに化石となる。琥珀のなかに見つかるのはその時代に飛んでいた昆虫だが、たまに歩行してきた飛べない昆虫も見つかることがある。
写真はヒゲブトオサムシの一種Succinarthropterus sp.で、私の持つ琥珀のなかではずばぬけて高価なものである。ちょっとしたダイアモンドも買えるほど。ヒゲブトオサムシはもともと個体数の多い虫ではないので、琥珀に見つかる確率がそもそも低いし、これほどきれいに良く見える標本は極めて稀である。もちろん私が買ったわけではなく、幸運にも交換で入手した。
属名は「Succinum」+近縁属の名「Arthropterus」。「Succinum」はラテン語琥珀。ちなみにギリシャ語の琥珀は「Elektron」で、琥珀を擦ると静電気が出ることから、電気「Electric」の由来となった。「Arthropterus」はギリシャ語で「節のある羽」の意で、羽毛のような触角に由来していると思われる。したがって、「Succinarthropterus」という造語はラテン語とギリシャ語の組み合わせであり、あまり美しいものではない。